ガラス扉の向こう
闇ふかき落ち葉のもとにかそかなるもののかげありわが眼をさそう
落ち葉かげよどみつつあるひとところ横たわりおり黄みどりいろは
澱みやすきガラス扉の下くらみありてふたつまなこをわが見たりけり
枯れおちば纏えるごともつつまれてねむるものありつばさもつ目は
ふき溜まり 風のよどみに黄みどりのまろみがひとつめざめを知らず
かぜ降りて枯れ葉もみじのしたかげにみどりあやしく羽顫えおり
かげ淡くのこりし窓のうす明かり 散りにけるらしちいさきとりは
そらから来て小暗きまどのそのもとに消え入るごとも鳥かげのあり
ねむる野鳥(とり)の目より溢るる涙ありて滴もてしるその玉ゆらは
半眼のままにねむれるののとりの目には盈ちたる透明のまど
そののちにホワイト・アイと知りしことも 骸ひとつを土に埋めつつ
ガラス扉の向こうめがけて翔つとりの目にはあまねく空あおくあり
みずからの翳とは知らでまっすぐに窓のガラスに飛びたつ一羽
打ちつけに窓のそらより墜ちきたる鳥は知らずやガラスのまどは
ガラス扉にうすらのこれる野のとりの絵よりしたたるかぎりなき青
あとりえの出口入り口ガラスにて 鳥がぶつかるいちどならずも
飛ぶとりの視野に入らぬガラス扉の暗みおもえり 透明ゆえの
ふかぶかと窓がえがける空のはて 吸い込まれゆく快感おもゆ
そら蒼くうつり込みたる空間にはばたき止まず翼もつ目は
迫り来るまどのガラスにもろ手ひろげなにを見たのか空ゆくとりは
あちらがわへ羽撃きたりしキジバトの絵すがたあわれガラス扉が知る
うすらかげ鈍くのこれるガラス扉の表面(おもて)拭えり きじばとひとつ
ガラス扉に静止画となる恥さしさは ツバサみだれてわれをうしなう
ムクロひとつ葬りたれば啼くとりの ちかくて杳いキジバトのこえ
≪Peace≫のハトは金色にして羨(とも)しきよ 真っ逆さまにオリーブくわえ
≪Peace≫のハトのごとき写しえガラス扉に見るはせつなくその灰色は
ひとのこころかるくあしらう山鳥のうごきに似せてあるきだす翳
くうかんに酔い痴れている鳥どちのこえは賑わしビルの峪の間に
よき声のために捕らえし野のとりの カゴの中よりとも呼ぶこえは
彼処がわよりガラス扉のなかをのぞき込む視線あやうしまた来て四角
エサ台にきょうも来ているメジロらの糞のムラサキなにやら雅
庭の木の小枝のごときナナフシの擬態もあわれフンを落としぬ
鵜野森の樹々のあわいに蠢くはアオバズクかも 背の闇に聞く
スズメ二羽繋がりしままに飛んで来て窓にあたって撥ねたるも解けず
三ツ四ツ鳴くごとに五ツ六ツ返す カラスのこえも春立ちぬきょう
ひらりひらり羽毛舞いおち電柱に止まるカラスはなにをか啄ばむ
襲われてウズラとび出す塀のうち 残るひとつはすでにクビなし
はなし飼いの隣家のチビというネコが庭に来ておりことり咥えて
雨あがり春の気配にみずたまりのぞき見ているくろしろのネコ
木洩れ日のまだら踏みたる足おとにしみいる昨夜のあたたかき雨