古屋日記 2025年6月

吉良幸子

6/2 月
新居の鍵をもらいに不動産屋へ。そのまま電気やガスの立ち会いがあるからお昼にサンドイッチを買って家へ向かう。築年数的には私よりもかなり先輩の一軒家で、外観にもものっすごい年季を感じるんやけども、中身は綺麗で広めの和室がある木造二階建て。まだ家具も何もない畳の上にぽつんと座って、明日からどうぞよろしゅうお願いしますと家に挨拶した。

6/3 火
引越しの日!丹さんの名残り雨かしら、今週は今日だけ雨模様。早朝に残りの梱包をざっと終わらせ、近くの八幡さんへお礼参り。引越し屋さんが来るまで余裕があるなんて…前回とは打って変わって段取りええやないの。10時前になって賑やかな引越し部隊がやってきた。今回も光の速さで雨の中荷物を積んでいく。あっという間に積み込んで、先に出発!スペアキーを渡して勝手に荷物を入れておいてもらう算段。
さて一方の喜多見では、ソラちゃんを連れて引っ越すために呼んだドライバー、山ちゃんが来るまでまだ数時間ある。せっかくやし近辺の行きたかったとこへあちこち行っておこうと、まずは祖師谷へ下駄の直しを引き取りに。鼻緒をつめるのだけ頼んでたんやけど、すんごい削れてた台のとこまで綺麗にしてくれたはってほんまにありがたい。ちょっと遠くなるけど着物関係はここへ来ようと思う。公子さんにお昼を買って一旦帰宅。ソラちゃんはふてくされてお隣の空き部屋の軒先でそっぽ向いとる。
近くで行きたいとこもっとないかいな、と考えて、再び電車に乗り成城学園前へ。散歩で店の前を歩くばっかりやった蕎麦の増田屋さんに行ってみた。ガラガラと引き戸を開けて、嗚呼、もっと早く入ってたら良かったのに、と心底思た。気取らんお蕎麦屋さんでしかも蕎麦がむっちゃおいしい。蕎麦食べる前から蕎麦湯出してくれはるし。満腹で家に帰ったら丹さんが雨の中来てくれておった。部屋を引き渡して、山ちゃんの車を待つ。丹さんが逃げるソラちゃんを確保して車へ、公子さんと私のかわりべんたんに抱っこしてドライブ引越しを敢行した。ソラちゃんは箱に入れられるよりも外が見えてると問題ないらしく、にゃぁとも言わずにずっと外をキョロキョロ見るだけ、暴れず逃げずの終始お利口さんやった。
家に着いたら、引越し部隊は仕事を終えてさっさと帰った後で、ものすごい量の荷物が迎えてくれた。階段が急やし二階は私が、一階を公子さんの部屋にする。前に住んではった大家さんと思われる方がご高齢だったらしく、ごっつい手すりがあちらこちらに付いていてありがたい。階段は手すりがないと私でもちょっと怖いくらい段が浅くできておる。公子さんがゆっくり一段ずつ二階へ、ソラちゃんも一緒に来て、へぇ~割に広いじゃないの~とみんなでおうちチェック。荷物もそこそこにソラちゃんが落ち着いて寝そうになったら、すかさず外へ出て家から一番近くの蕎麦屋へ行った。腰の曲がったおばあちゃんが給仕してくれる、家族でやってはるお蕎麦屋さんでそりゃぁおいしい。やっぱし無事に引越したし、蕎麦食べとくか!と本日2杯目のお蕎麦をいただく。手作り肉じゃがを注文しとる時によしえさんからお電話が。図らずも引越しおめでとうとちょっとお喋りした。
帰ったら各々、とりあえずお布団を敷いて寝られるようにして、ソラちゃん含めみんなどかっと寝る。雨やしさすがに疲れたようで、みんな爆睡。明日から荷解きがまた始まるけど、それより町を散策するのが楽しみや。

6/4 水
越してきて昨日の今日やけど、落語会へ行く予約をしてたので御徒町まで。何がびっくりしたって、御徒町まで余裕の30分圏内!今まででは考えられんくらい、どこへ行くにも立地的に便利でありがたい。私が落語会へ行ってる間、公子さんは近場をうろうろ。商店街で色んなおいしそうなお店を見つけてくる。
うちは家々の裏手にあるんやけども、家と家の間に細い猫道があって、そこを猫が通ってゆく。それも1匹2匹の話じゃなく、大きいのからちぃこいのまで色んな柄の子が歩いている…その影が公子さんの部屋の窓に入れ替わり立ち替わり映るからおもろい。
ソラちゃんは今回の引っ越しの時、車窓から車のビュンビュン通る景色を間近に見てきたからか、前の家に自力で帰れんのを理解している模様。新居では全然外へも行きたがらず、終始公子さんか私にべったり状態。どっちかってと、こんな所に急に連れてこられて、オレってなんて可哀想な猫なの…という感じの名演技中で、色々と身辺を労ってもらいたいらしい。そんなソラちゃんも一応、外猫たちを気にしてるけど、当の外の猫たちはそんなことより、この家、猫おるし入れそうやなぁ…と侵入を狙っている感じ。いっぺん入れたら居つきそうな子ばっかしやし、それは絶対入れんとこな、と公子さんとの固い約束。

6/7 土
今年から梅仕事を始めようとずっと考えてたのやけど、友の実家に梅の木があるということで久喜まで梅もぎの旅に出かけた。モンペに長靴、麦わら帽子に軍手で蚊対策は万全。大きな梅をたくさんいただいた。梅酒と梅干しを漬けようと、実はかっぱ橋に何度か行って壺やらざるを買うてきておる。引越しでただでさえ物入りのとこに何してんだかと思いつつ、漬けるのむっちゃ楽しみ。明日帰ったら早速下処理して漬けようと思う。おいしいのができますように。

6/12 木
十条に住む、公子さんの昔からの友だちに会う。十条の人やしこの辺りのことを色々と教えてもらう。どこのお豆腐屋さんがおいしいとか、どこのお肉屋さんがおすすめとか、もっぱら食いもんの話ばっかし。まだ引越して2週間くらいやねんけど、公子さんも私も、もうずっと長い間この町に住んでた気がしとる。

6/14 土
アパートん時と違って部屋が上下に分かれとるから、用事があると公子さんが階段の下からおーいと呼ぶ。すると私も階段の中段くらいに降りていって、下で座る公子さんと話す。引越してから超甘ったれ坊主なソラちゃんも階段が好きで、階段で話しとると自分も参加しにふたりの間の段に座ってふむふむと聞いておる。そんな、階段会議が最近の古屋のハヤリ。

6/26 木
都内の銭湯で使える入浴券が月末を過ぎるとただの紙切れになってまう。もう26日やというのに残りは7枚。銭湯好きやのに無駄にはでけん!と今日からどこの銭湯に行くか計画を練る。1日に2回入る日も勿論出てくるんやけど、最近急に暑くて汗だくになっとるしちょうど嬉しい。まずは手始めに、今日は行ったことない銭湯へ行くべく御徒町の燕湯へ行った。駅からこんな近いとこに風情ある建物が残ってるなんて!と感動。朝湯してはるから閉まるんも早めやけど、寄席の帰りにこれから行けそう。湯でさっぱりした帰り、つる瀬で水無月をお土産に電車でどんどこ帰る。

6/27 金
今日は家から一番近い湯、やなぎ湯へ。公子さんはすでにちょくちょく行ってはるんやけど、時間によってはむちゃくちゃ混んでる!と聞いていてびびって行けてへんかった。どれくらい混んでるって、日曜は人多すぎて断念して帰ってきはったことあるくらいやねんから。
雨がザァっと降って、人もあんまり動いてなさそうな時を見計らって行く。お客さんの数はぼちぼちやけど、なんしか脱衣所が狭い。そうは言いながらもお風呂の方は広くて色んなお湯があってむっちゃええ感じ。白濁のシルキー湯なんてあるし、一応露天みたいなとこもある。近場にええとこがあって嬉しい。これからは時間見てぼちぼち来ようっと。

6/29 日
残りの銭湯券は4枚、月末まで残り2日…ということは、今日明日は2回ずつ風呂行かねば!と朝から謎にひとり意気込む。調べたら、十条湯が日曜朝風呂やってるらしく朝から十条まで歩いて行ってみる。十条湯はいつ行っても活気がある感じ。今日は泡風呂の日で、朝からあわあわの白い湯に浸かりながらおばちゃんに話しかけられ、十条近辺のあれこれを聞いた。この辺の人はすぐに話しかけてくれるから嬉しい。
今日はお昼から公子さんが黒テントへ行く日。私は甘えたすぎのソラちゃんとお留守番。最近は添い寝してくれと言われ、布団じゃなくて畳の上で寝ることもしばしば。夜、公子さんがへとへとで帰ってきた。色々と寄り道したらしい。でも最近は近場をよく歩いたはるし、世田谷におった時より脚の具合はマシらしい。やっぱし町がおもろいのって大事やね。
ごろんと寝っ転がった公子さんを見てから王子神谷の方にある宝泉湯へ行ってみる。十条の方面は歩いて何度も行ってるけど、逆方面へ行ってみるのは初めて。一番近い道を通って行ったらものすごい団地に公園が出てきた。そして駅も意外に近く、地下鉄もこれから使えそうな予感。宝泉湯は露天風呂に打たせ湯まである銭湯で、ご近所さんが通ってはる感じ。あ~近場の銭湯に色々行けて楽し~。

6/30 月
長く濃かった6月がようやく終わるらしい。今日は朝から王子神社へ厄払い、銭湯券を使い切るべく汗だらだらでお昼から銭湯で汗を流し、寄席に行ってとんぼ返り、家を訪ねてきてくれた「本 ゆくえ」の友たちと飲む。そして駅へ送りがてらまた銭湯へ。これで手持ちの銭湯券もちょうど使い切れた!
銭湯の帰り道にスーパーへ寄ったら、4年間貯めてたポイントが満タンまで溜まって1万円札と引き換えてくれた。ラッキー!公子さんに、ええ人生送ってるねぇ、なんて言われる。ほんまに贅沢な1日やった。さぁ、月が変わったら本腰入れて働かにゃいかんなぁ。