アラクサの森に
日曜なのに教えのありてうす暗い闇のなか行くカインとアベル
バード・ストライク前夜うたえばうら悲し 影絵のような紙しばい浮かび
あられもなく母親おもいのおとうとを石もて打てる兄恐ろしき
どっからでもかかって来いようゆっくりとカインとアベルに戻りゆくまで
十四枚の浮き彫りが壁にならびいて死にいそぐ人の道行きはイバラ
踏まれても踏まれてもなおすき間より生うるあらくさその草を抜く
アラクサの森にうたえる蝦蟇どちのガマの油は先着順です。
うたうたうはうったうるに故ありと説く国文学者にわれはしたがう
隠るところ誇示するところ(イジメナイデ)雨を待てずに枯れカタツムリ
倦むところ逐わるるところうたうところ故郷まとめて走るちゃばたけ
あらたしき家飾らんに摘みてこしわがマンジュシャゲ棄てられにける
ふきつといい花を捨てゆく母の手のゆびに彼岸のはなのくれない
サジもて母が苺をつぶすそのたびに真っ赤なる捨子花のはなひらくらし
ぎゃっこうのガラスのまどゆ追憶の墜落絵図のヒカリあつめて
みききしたる食言あわれこぼれやすくこぼれ花咲くそのみちを行く
歳月というは貧しきろかも 食言の束を束ねて卯ノ花くたし
たびたび父は素手にて黒きゲジゲジを打ちのめしたれば喰う真似をせり
さまざまなる眼は母にしてただしきはあの日の父の興信所の眼
基督より天神さまのほうが尊しとアラクサは言い抜かれつつ言う
キリトリ線にそって切り取るそのゆえに消えてなくなるキリトリ線は
じゅもくはつね死なない空気を醸し出しさそい込むらし 樹木葬へと
切羽詰まったときにはわらうしかないと死んだふりして枯れゆく一樹
時価総額はかりかねつつ老梅にちかづくキカイ仕掛けのメジロ
()かざ切り羽どこへ落としたものなのか 下見てあるくわがみち昏し
目つむりてこころの中の耳宇宙さぐらんとせる綿棒はるけし
あちらがわよりガラス扉のなかをのぞきいる視線三角また来て四角
ヒトのまなことメジロの目との揺蕩いに視差あるらしもねむる蝋梅
眼差しはときに光(かげ)さえ見落とすと 窓の向こうにも眼のある日暮れ
どっちつかずのユメ醒めやすく目のみえぬオニヤンマつとも夜間飛行に向かう
仲睦まじくつつき合うときアイリングみつめ合うときハクセイは匂う
悉く憎悪に燃えてしまいけれ 柳葉魚は焦がし気味がよろしき
万物のレイチョウわれにツバサなくみず掻きもあらでうたえられおり
いちがつの花火つめたし 湖につばさしずめし不二よみがえる
元日夜の河井町大火 不明なりし独居老女の無事を知る感謝
万博不要五輪不要の唐辛子列島はみよいずこも真っ赤
万博の前に小暗き五輪ありき お・も・て・な・しとかいいたりし女子もや
バード・ストライクとバート・バカラックは似て非なれども二人で最初に観しは『幸せはパリで』
このまんま死んでもいいよう深くふかくすわり直して息吐くおおきみ
あかいあかい朝日のあたる家のまえ メジロ鳴いたかサザンカ咲いたか
アカイアカイアサヒののぼるユメさめてサクラ色めくうつつのわたし