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北村周一

なにものかに弓引くように撓みたる島かげは見よ全身真っ赤

あわれあわれ
プレートの上に
のっかって富士の
すそ野はどこまでがすそ野

燃え滾る海溝あまたしたがえて
美と崇高の極みねむらず

百十一の
火山犇めく
列島の
まなかちいさき
フジツボがひとつ

夜の月にもっとも近きお山なればかぐや姫にも愛されたるらし

背の高い火山は崩壊しやすいと
『岩屑なだれ』学者は言うも

音速をはるかに超えてなだれ来る
ブラスト(爆風)凄まじわが身を焦がす

くろぐろと白きゆきふるその日までのどけからまし霊峰不二は

活火山は
おそろしけれども
自然なり
自然なるゆえ
予想を超える

美しき
円錐形の
奥の奥の
マグマそれこそ
不二をつくりぬ

地震
カミナリ
雨アラレ
なんでもありの
富士山麓にオウム啼くとき

めぐみゆたけき火山への返礼として
冨士の高嶺に川ウナギ昇れ

墓参り母をさそいし彼岸入り 
冨士霊園はほどよく遠い 

近過ぎても冨士は拝めず霊園のもみじ色づく墓地のしずけさ

口を吐くけむり輪となるのどけさよ 
冨士のすそのに墓まもるひと

ながながとつづくフェンスにみえかくれヘクソカズラと武器と赤富士

右岸より
ゆうべの不尽を
言祝ぎつつ
二子玉川駅に入りたり

それにしても
日本平というところ
富士見るためのなだらかな丘

三保の沖ゆふり返り見れば屏風絵のごとく富士あり清見寺あり

不二がまず
ありてそれから
羽衣の
三保の松原
生れにけらしな

はごろもの
松はいつしか
銭湯の
空間絵図と
なりて気恥ずかし 

まどを開け久能街道を疾駆せり うしおにぬれて佇つ夏の冨士