1月1日:「なんでも、ある時には歩道で棒のように倒れて、通行人が救急車を呼んでくれたらしい。駆けつけた時には立ち上がっていて、片手に焼酎のビンもう片手にタバコを持って血の池を眺めていたんだって。救急車に載せようとしたら、歩いて帰るだとか大丈夫ですと言って聞かなかったっていうんだよ。そればかりじゃないよ――」。
上手な生き方とは、カネにものを言わせて快楽に浸るのではなく、気分が沈滞した時に自らを救済するための感覚を利用することである。絵画や音楽を筆頭とする表現作品のどれかに心のチャンネルを合わせ、来るべき自浄作用をおおらかな態度で待つ。目的が完遂したら、以前と変わらぬ社会関係をこなす。こういう聖人はもっといてもよい。
東京音頭が許されていたので、ちゃらんぽらんでいたら告別式だったということもあって、ダッフルコートを買うことにした。買う前に跳べ。ビルの屋上から向かいの屋上に跳び移ったら、ギョウザの皮がうまく閉じられなくなった。カラスの新境地。いつだってコミュニタリアニズム。脳みそが一気に啓蒙されて、おばあちゃんのにおいがする。
意識が邪魔である。周辺を知覚することにも物事を考えることにも、愛想が尽きている。フロイトのいう昼間の残滓とやらの夢、出てくる顔に発せられる言葉。死に近い眠りを最後に取ったのはいつのことか。深酒し死んだ状態で歩いていた夜はあるが。生に不可欠な意識という夾雑物。これほど悩ましい喜劇は人間界にはちょっとあるまい。
まだみんな生きていた――未来は常に過去にある。
明らかな損得勘定が介在する友情。死んでから故人に情を抱き接近する不謹慎者。個人的な処世術を得意気に説く無定見。宗教にどっぷり浸かっての不健康なともがら。世間をすがめで見ながらも品行方正な厭世主義者。この期に及んで夢や希望を押しつけられる亡骸。他人の秘密を楽しげに表沙汰にする不心得者。そんな者になってみたい。
カミュの言う形而上学的反抗をしようと、ボルツマンの原理にすがってギャロッピングインフレとの格闘を海パンに長靴という出立ちで決したら、サンクトペテルブルクのくじに当たった。これでパレート最適なのか。僕は私は小生は、ブリコルールになりたくて、オイリュトミーを実践したまでだ。今度はリパプール方式で尻取りをする。
1月1日:「またある時なんか、何がきっかけかわからないけど、七八人のごろつきと大立ち回りを演じて、それを止めに来た警官が、そいつを取り押さえようとして四人がかりで挑んだんだけど、全然つかまえられなくてもう一台パトカーに応援を求めたんだってさ。総勢八人でやっと取り押さえることができた。そのままトラ箱行きだよ――」。
部屋でじっとしている時、街中を歩いている時、半眼で半笑いの苦痛に襲われる。逃れようとすればまんまと沼に落ち込むだけで、五感の働きが活発な日は苦痛が上乗せされる。あがくように馴染みの道を進み、知った店に救いを求める。椅子に深々と腰を下ろしコーヒーを飲んだところで苦痛曰く「キミがキミでいられるのは俺様のおかげだ」。
大衆参加型社会を想う。かつては「その世界」や「向こうの世界」と言われた職業に、ずぶの素人が大挙して土足で入ってくるようになって久しい。数が増えれば質が落ちるのは自然の摂理。誰にとっても簡単でわかりやすく接しやすい内容が要求されるようになった。幼稚化である。チャンスの神様が前髪を剃るための賽は投げられた。
貧乏の惨めさったらねえやな。身動き取れねんだもの。あぶく銭でタバコを買い、なけなしのカネで借金返済。プライドや世間体なんてもんはドブに捨てた。カネのない人間にはそんな贅沢は必要ない。友人らしき人々もみんな去っていったしな。貧すれば鈍す。おかげで惨めさも半減ってとこじゃ。アタラクシアの境地とでも言っておくか。
病気はやんちゃ坊主だ。疾患部用の薬を飲めば、ひょいとかわして別の疾患部に症状の一撃を加える。時には健康な部位をかどわかしてことを荒立てる。この坊主、何年付き合えど成熟を見ない。これから先も続くであろうことに嬉々としている。まるで医師の診断や患者本人の苦しみなど、間抜けな三文芝居であるかのように好きに増長する。
1月1日:「トラ箱から出て自分が何をやったのか警官に聞いたら『何も覚えてないのか!』と一喝されたんだってよ。警官8人と大立ち回りを演じながら、本当にな〜んにも覚えていないなんてすごいよな。公務執行妨害でてっきり逮捕かと思ったら『よっぽど逮捕しようかと思ったよ!』とまたどなられたって。酒の力はすごいもんだ――」。
[いらないものランキング]
第1位:一回やっただけでの彼女面
第2位:女子による結論のない長話
第3位:酒が強いアピール
第4位:雑な義理チョコ
第5位:「あけおめことよろ」メール&年賀状
肉親はおろか、自分を知っているすべての人から笑われている。そう思えて仕方がない。被害妄想ではなく、過去の馬鹿さ加減、現在のろくでなしぶり、そして将来のつまずく姿を、嫌疑に近い慧眼に読み尽されている気にさせられるのだ。笑いは必ずしも明るく楽しいものではない。無用な人間を絶壁から蹴り落とす笑いもあるものだ。
しかしなんで飲んじまうかなあ。酒は飲んでも飲まれるな、か。いいこと言うね、先人は。わしにとって先人とは、おやじしかいない。おやじも言われてたなあ。酒は飲んでも飲まれるな、とな。おやじにとって先人とは、わしのじいさんしかいない。じいさんも言われてたなあ。酒は飲んでも飲まれるな、とな。じいさんにとって先人……。
その日に頼れるものがないとどうもいかん。物体でも思想でも音楽でもいい。酒はまああれだ。一日が長くてしょうがない。煩わしくて疎ましい一日が。こんな時間をわしにくれてくれるな。朝から晩まで部屋の中を行ったり来たりしなきゃならん。窮余の一策としてガムとコーヒーじゃ。これも限度がある。支柱のない人間の不様なありさま。
山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山
山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山山
さて、「山」とは?
人間とそりが合わない。他人の意見・意向にいつも否を突きつける。こんなことばかり繰り返していると、自分はやっぱり人間には向いていない心境になる。またこういう時に限って、意想外の禍いがじりじりと迫ってくるし、未解決の難題が頭脳に殺到する。ノーペイン・ノーゲインがなんだ。万事にけりをつけたくなるひと時である。
魔からにほうしの そではさで
もひつ埋めつに 雁きとなあ
またにき三度で 追いばしょこ
れれくんばりは 捨てらじる
ううこそ婆こそ へほたぬい
電車の吊り革につかまっている。目の前には学生服を着た青年が座っている。この青年、何しに生まれてきたんだ。左で立ちながらうとうとしている会社員、この会社員、何が楽しくて生きているんだ。右側でスポーツ新聞を広げている男性、この男性、どんな理由で生きているんだ。考えつめてしまって、あやうく嘔吐するところだった。