キャメロン・クロウ脚本・監督の記録映画『パールジャム20』(2011年)を見て、パールジャムというロックバンドにすっかり心奪われてしまった。彼らは、ニルヴァーナと並ぶグランジロックの人気バンドだから、何を今さらと笑われてしまうと思うけれど、ローリング・ストーン誌の記者時代からこのバンドを追い続けてきたキャメロン・クロウならではの、バンドへの愛にあふれる素晴らしい映画だった。ボーカルを担当し、バンドの顔でもあるエディ・ヴェダーの存在は知っていたけれど、映画で知った他のメンバーもそれぞれ大変魅力的だ。
ギターのストーン・ゴッサードとベースのジェフ・アメンへのインタビューを中心にバンドの物語が語られていく。パールジャムの前身である「マザー・ラブ・ボーン」のカリスマボーカリストであったアンディ・ウッドをドラッグの過剰摂取で失い、バラバラになりかけていた時に、新たなボーカリスト、エディ・ヴェダーを迎え入れて、バンドが再生するところからパールジャムの物語は始まっていく。送られてきた様々なデモテープから、エディを見つけ出した時のことを、アンディの親友でもあり、シアトルでの音楽仲間でもあるサウンドガーデンのクリス・コーネルが「テープで彼の声を聞いたとき、人が見えた。本物の人間だよ。別の人間になろうとしている人ではなく、本物の男がいた」と語っていて心に残る。デモテープを送った頃の事を回想するエディの言葉も素敵だ。「ボーカルなしのデモテープが届いた。曲に感情を揺すぶられる事なんて久しぶりだった。仕事を終えて、サーフインをして、足に砂をつけたまま録音した」と。
メンバー同士がお互いを見いだし、認め合い、そして成長していく。バンドにとってこれほど幸福なことはない。私がこの映画とパールジャムに心魅かれたのは、ロックバンドの幸福という奇跡の物語をそこに見たからなのだと思う。
1200時間の映像を約3年かけて120分に仕上げたというこの映画には、若い、長髪にメークの尖がったメンバーの風貌と、今は”もう髪を短くしていてもちゃんとロッカーに見える”ただ者ではない自信に満ちたメンバーの風貌、両方が魅力的に捉えられている。エディ・ヴェダーとの出会いからわずか6日後に行ったパールジャム誕生のライブで演奏された彼らの代表作「アライブ」。映画の最後に、20年目の「アライブ」のライブ映像が再び登場する。音は古びずに、より深い確信に満ちていて心を打たれる。いっしょに歌う観客の映像が挟み込まれる。メンバーそれぞれも、ファンと同じように、ロックを見つけることで生き延びてきた人たちに違いない。いくつかのバンドの危機を乗り越え、今、さらに強い結びつきを持って奏でる音は、聴くファンを勇気づけている。