陽の光が降る夏でさえ

くぼたのぞみ

ていねいに暮らすことが
あらがうことになるなんて
辞書のすみっこで身をまるめ
長い眠りについていたことばの核に
必死で水を遣り よみがえらせる
そんな時代がくるなんて

兵士になり 銃を空に向けて撃ち
女の子が生まれたら
のぞみ
と名づけようと結婚前から決めていた
人の子を宿したあなたは
人災の粉があたりに降ると
とっさに身を引き締めて
翼の下に子どもを囲い込んだ
かあさん
それでも あなたの力がおよばない
大波が
この世には たんと あって
それは なりゆき
それは 運命
と受け入れるしかないことも
たんと たんと あったね

村には相談相手さえなく
あらがう力を外へ向け
つながる手段をもたないまま
あなたは ひたすら 
直感で 次代にそれを託したけれど
託されたものは いまなすすべもなく
あなたの口からこぼれた
ことばだけが 
力も意味も剥ぎ取られ
ぽたり ぽたり

落ちて溜まったことばは
遠い記憶の井戸のなかで
醗酵し
ノスタルジアと憤怒のアマルガムとなって
あるときは覚醒の 
あるときは脱力の 
あるときは澄明の
響きをかもしだす

かあさん
こんなに明るい陽の光が降る夏でさえ
なすすべもなく
ということも あるんだね
希望という
名において
あきらめはしない、けれど
そう
のぞみという
名において
あきらめはしない、けれど