大晦日の礼拝 ジャワにて

冨岡三智

1月号に大晦日の話もちょっとずれているのだが、ジャワで印象的だった大晦日の話…。

いちど、プロテスタントの友人に、大晦日の礼拝に誘われて行ったことがある。その子は、婚約者の彼に合わせてイスラムからプロテスタントに改宗し、熱心に教会に通っていた。実は、教会の中に足を踏み入れるのはそのときが初めてで、信仰心はなかったが、好奇心はあったのだ。連れて行ってくれた教会は、ウィドゥランという大きな通り沿いにあって、私が住んでいた所から自転車で5分くらいの所なのだが、教会前が車で大渋滞していて驚く。今までキリスト教行事の日に出歩いたことはなかったが、こんなに混むとは知らなかった。

建物の中も立派で、大きいのに驚く。礼拝堂は1000人くらいは入る大きなホールで、所々にツリーが置かれてあり、壁面にも雪の飾り付けがされている。雪のないインドネシアでも、クリスマスや大晦日の礼拝行事のときは、北欧風の飾り付けになるんだなあと、不思議な気になる。オーストラリアでもそうらしい。

式次第はあまり覚えていないのだが、最初にいくつか讃美歌の合唱があった。私の友人は、合唱隊で歌うから…と言って、私を置いていってしまった。壇上では教会の合唱隊がずらりと並んで歌い、列席者も起立して一緒に歌う。教会の中では、椅子に座り、起立して歌うというのが新鮮だ。ガムラン音楽の上演や、伝統的な詩の朗読会、それにイスラムの集まりなどでは、床に座って歌ったり、お祈りをしたりというのが普通なので、あまり立って歌う姿を見たことがない。

その次に聖書の朗読というのがあったような気がする。合唱隊から戻ってきた友人が聖書を見せてくれる。聖書はインドネシア語に訳されている。その後の牧師の説教も、確かインドネシア語で終始した気がする。私が今まで出席したことのあるイスラム導師による儀礼というのは、すべてジャワ語で執り行われていた。イスラムの方がよりジャワ土着化しているからかもしれない。

宗教劇もあり、それは確か牧師の説教の前だったような気がする。信徒たちのいくつかのグループが演じていて、学芸会程度のレベルだったのだが、教会によっては芸大の先生たちに宗教劇制作を依頼することもあり、そういうものはやはりレベルが高い。この教会では、イエスと羊飼いの友達とマリアが登場して、携帯電話でやりとりするのだが、通信がうまくいかなくて…といった、コント風のものが多かった。このときの衣装は、マリアが青いマント、イエスも白い布を巻き付けたような格好といった風に、ヨーロッパの図像を踏襲している。この時にハタと思い至ったのだが、この衣装は北欧のものではなくて、暑い中東地域のものだ。この姿なら、ジャワでもあまり違和感がない。けれど、イエスやマリアがこんな薄着なのに、ヨーロッパでは冬の北欧スタイルでキリスト生誕を祝っているのも、不思議だなあという気になる。

その宗教劇の前だったか合間だったかに、献金箱が廻って来る。自分ができる範囲でしたら良いと言われるが、いくらにするか迷うところだ。「近所づきあいで結婚式や葬式のお包みをする程度」の金額を入れることにする。

牧師さんの説教は、まるで予備校の名物講師が壇上狭しと講義しているかのようだ。マイクを手に持ち、口角泡を飛ばす勢いで、えんえんと続く(2時間以上続いたかもしれない)。知り合いの、議論好きの教授の顔を、思わず思い浮かべてしまう。プロテスタントの説教というのは、こういうものらしい。プロテスタントの礼拝に連れて行ってもらったと、後日、私が舞踊の先生の1人(彼はカトリック教徒)に言うと、プロテスタントの礼拝はやかましかっただろ? カトリックでは粛々とやるんだ、なんて言われてしまった。しかし、あの迫力には圧倒されそうになる。また、インドネシア語の、あまりややこしさのない言い廻しが、こういう折伏調のしゃべり(失礼!)にはとても合う。

この牧師さんの話の途中だったかに市長が来て、しばらく挨拶がある。この市長は2年前に就任したばかりで、しかもこの教会の隣の区(私が住んでいた地域)の出身だった。市内の主だった大教会を廻っているようで、この教会で4番目、まだまだ廻る所があるということだった。調べてみると彼はイスラム教徒らしいが、ここインドネシアでも、冠婚葬祭は政治家にとって大事な付き合いなのだろう。

この礼拝はたぶん2時か3時頃に終わったのではないかと思う。それまでは、大晦日と言えば、市役所でワヤン(影絵)があったり、芸術センターやスリウェダリ劇場で特別プログラムがあったりしていたので、そういうものを見るのに忙しくしていた。けれど、日本にいる時は、私は大晦日の夜は近所の神社にお参りして、夜中の0時から始まる歳旦祭に参列していたから、異教徒であっても教会の祈りの中で年を越すと、なんだかすがすがしい心持ちになる。

追伸:
突然ですが、この1月半ばより来年の3月まで、大学の研究員としてインドネシアのジョグジャカルタ(通称ジョグジャ)に派遣されることになりました。今まで留学していたスラカルタ(通称ソロ)から約60km離れた土地です。同じジャワとはいえ、互いに対抗する町として、スラカルタとは違う文化が見られるだろうなと、半分わくわく、半分不安な思いでいます。本年もよろしくお付き合いください。