いつかここに書いたかな。オリガミ・ブック(正式呼称は知らない)といって、切れ目を入れない1枚の紙を折って形作る、本文5ページ+表紙の小さい本がある。折る紙の表裏の色違いを本文部分と表紙に使い分けられるので、いわゆる「折り紙」に向いている。特に海外の若い人たちが、折る手順と折りあがったものにイラストレーションや言葉を書き込んだものを「オリガミ・ブック」としてユーチューブで公開しているのをよく見る。このムービーを見ただけでは折り方がわかりにくいというのが「折りごころ」をくすぐり、またちょっとした加減で仕上がりのチリや背の具合が変わるので、私も何度か挑戦したことだ。折り紙上手の人に教えたら、「これ、倍のページが作れると思う」。まもなく彼女は本文が11ページあるオリガミ・ブックを持ってきて、「よみ通り、あるひとくくりの折り作業を繰り返したらできた」と言う。折りあがった本を天地側から見ると、真ん中のページを頂上に小口は山型になり、ノドのところはパイ生地を2つ折りしたような重なりが美しい。彼女が選んだ紙の効果も大きいけれど、歪みやたわみはさながら「古本」のようである。このみごとな「古本」折り紙、いつかみなさまにもお目にかけましょう。
さて製本には、もれなく折りの作業がついてくる。手製本でも機械製本でも、工程の中で誰かが折りの作業を担う。紙を手で折るときは、裁縫箱についていたヘラが重宝する。布に型紙をあててそのラインを記すときに使う白いプラスチック製のあのヘラだ。紙の折り目を上からなでて、U字型の折り目をV字型にきっちり折りきるという感じで使う。あまり力を入れると紙が光ってしまうから加減が必要だが、スキッとして気持ちのよい作業になる。栃折久美子ルリユール工房で製本を習っていたころ、自分専用のヘラを作ったことがある。水道橋の製本工房リーブルで、おしどりミルクケーキのようにカットされた水牛の骨を買い、やすりで使いやすい形に削って亜麻仁油に一週間ほどつけておく。あめ色の、なんだかいかにも「道具」然としたものを手にしてうれしかった。実際は、プロでもないかぎり市販のヘラで十分だ。でもこうした道具をあつらえることはくすぐったいような喜びがあるし、またそれを実際に作ってみることで、想像もつかなかったほうぼうへの興味が広がる。あの工房では、カリキュラム以外の愉しみもたくさんもらった。
機械製本の折り作業はもちろん機械がやるわけだが、面付けして刷り上がった印刷物が一瞬にして折り畳まれるスピードにまず圧倒される。そばで見ていただけではわからないその仕組みを知ると、またさらにおもしろい。正栄機械製作所の「オリスター」という折り機の商品説明から、ちょっと抜粋してみよう。
・8ページナイフ下に左右の羽がつけられ、直角巻・外折が
”簡単なセット”と”省スペース”で可能
・標準4枚羽だが6枚・8枚羽型が別註でき経本折巻折に有効
・ハイスピードでカンノン折ができる装置の取付可能
なんのことやら。でも機械の折りの仕組みはシンプル。速度をもって流れて(機械に入って)きた紙を追突によって向きを変えることで「折り」とする。折り山には、空気が抜けてよく折れるように穴も開ける。この追突を上下左右に繰り返すことで、大きな紙が判型ほどに折り畳まれて出てくるわけだ。使用する紙の大きさと判型によって面付けや折り方は変わるし、紙により量により機械の設定はそれぞれ違う。細かな設定やメンテナンスは、機械のオペレーターがそれぞれ担う。今後折り機の見学をすることがあるならば、稼動する前の準備段階こそがお勧めだ。
折り紙でも製本でも折り機械でも、こうして「折り」を考えることは大きな紙を思い描くことである。なんて広くのびやかな世界と思う。