穂――みどりの沙漠39

藤井貞和

夜明けがやさしいなら、

きっと きょう一日を耐えられると思う。

ここは夜明けの準備室、

まだ暗い牢獄、ぼくは精神を出られない。

置き去りのプラットホーム、

駅長室で、始発のベルが鳴りっぱなし。

十字架に押しつぶされ、

自律神経はこなごな、よわいんだからお前。

けさのくるのが怖いひと、

夢のあとさきで希望がつながるならよいのに。

夢のなかでおれは、

穂明かりして、一本の稲でした。

(学生が読みまちがえて、「もろ刃のやばい」。ああ、ほとんど感動的な一瞬だ、われわれはもろ刃のやばい。あちらもやばい、こちらもやばい。エッセイ集の題に『もろ刃のヤバイ』なんて、どうですか? また学生が読みまちがえて、「もろ刃のヤイバ」。)