時代劇などを見ていると、床に座る社会での立ち居振る舞いというのが気になる。というわけで、今回はジャワの伝統舞踊に見られる立ち居振る舞いについて。ここに書くのは、中部ジャワ(なお、文化的にはジャワ島の中部)、特にスラカルタ(ソロ)の王宮文化を背景に発展した振る舞いなので、同じジャワでも他地域では異なるかもしれない。伝統的な立ち居振る舞いは衣装と密接な関係があるので、最初に伝統衣装の着付について書いておく。ジャワの伝統衣装は男女とも下半身に一枚布のカイン(腰布)を巻くスタイルである。丈は踝(くるぶし)まである。男性は着物のように前身頃が二重になり、かつ下前にタックを取るので、大きく足を開いて座ることができる。一方、女性の方は布を一周半ぴったりと巻き付けるので、太腿をやや拘束された状態になり、普通の歩幅以上に足を開くことができない。
舞踊では、男女とも正座としての胡坐(シロsila)と立膝(ジェンケンjengkeng)の2種類の座り方がある。胡坐の場合、男性は大きく足を開いて両足を交叉させず(重ねず)に座る。女性は着付がタイトなので、膝は肩幅にしか開くことができない。そのため、ふくらはぎで脚が交叉するような脚の組み方をする。この胡坐が正座であり、宮廷で家臣が控えて座っている時はこのように座る。立膝については舞踊以外の場面でも使うのかどうか分からない。少なくとも私は見たことがない。男女を問わず宮廷舞踊では、入場してくるとまず胡坐に座り、合掌してから立膝に座り直す。そして、舞踊が終わる時は立った姿勢から立膝に座り、合掌した後に胡坐座りをしてから、退場のために立ち上がる。
●座る、立つ
ここから後は女性舞踊についてだけ述べる。立った姿勢から胡坐に座る場合、一般的には足を少し前後させて立ち、そのまま腰を下ろして蹲踞のような姿勢(ただし膝は閉じている)をいったん取り、それから手をついて足を交叉させてから床に腰を下ろす。けれど、私が自分の師匠(ジョコ女史)から習った座り方は違っていて、直立している時に足を先に交叉させ(足の位置は近い)、そのまま腰を下ろして床に座る。逆に胡坐から立つ場合、私の師匠はこの胡坐のまま両足首を引き付け(したがって、膝が上がる)、体重を少し体の前に移動させてお尻を浮かせ、そのまま立ち上がる。実は、ジャワで私の師匠のようなやり方で座ったり立ったりする人を今までに見たことがない。私が知る戦後(1950年〜)生まれ以降の人たちは知らないようで、戦前(以前)にあった座り方なのかもしれないと感じている。ただ、ジャワでは見たことがないこの座り方だが、実は日本の時代劇――少なくとも大河ドラマ――では見るのである。ただし、男性だけだが(女性は胡坐座りをしないから)。現在放送中の『真田丸』でも、武士たちはまさに私の師匠のようにひょいと立ったり座ったりするので、それを見るととても懐かしく感じる…。
次に胡坐から立膝に座る場合。立膝座りの場合、立てるのは左膝で、右足は日本の正座のように折る。胡坐の状態から両足首を足の付け根に引き付け、その状態で体重をぐっと前に移動させて両膝を床につける。そして膝に体重を載せた後、交叉していた足をほどいて蹲踞のような姿勢(膝を閉じる)になり、立膝の姿勢になる。足裏が完全に床にくっついているのに、この立てた左膝頭の位置がとても低くて、右膝頭に近い人がいるが、それは足首が非常に柔らかい人だ。立膝から立ち上がる場合は、左足にそのまま重心をかけて立ち上がる。逆に立った姿勢から立膝に座る場合も、右足を少し後ろにひいて、そのまま腰を下ろして立膝の姿勢になる。
●歩く
王宮で王の前で踊る時は、踊り手は奥から登場する時は歩いて出てくるが、上演空間(儀礼空間)に上がる時から腰を落とし、ラク・ドドッ(laku dodok、座り歩きという意味)という歩き方で王の前に進み出る。男女問わず、この歩き方をする。これは王の前にずかずか立って歩いていくことが失礼であるからで、踊り手に限らず、他の宮廷儀礼でも儀礼空間では家臣たちはこのように歩く。この歩き方は日本の各種武術に見られる膝行と基本的に同じである。男性の場合は膝行のように大きく足を開くことができるが、上半身はもっと前傾して頭を下げ、王と視線が合わないようにする。女性の場合は膝が開かない着付なので、まるでうさぎ跳びのような姿勢で、小さい歩幅で前傾しながら前に進む。
歩き方はいわゆるナンバで、日本の伝統芸能や武術と同じである。現在の我々の日常的な歩き方では、腕を振り、体をひねりながら前進する。つまり、右足が前に出る時には左手が前に出ており、左足が前に出る時には右手が前に出る。しかし、ナンバでは腕を振らずに歩き、右足が前に出る時には右手が、左足が前に出る時には左手が前に出る。一般的にそういう説明がされるけれど、つまりは半身ずつ体をつかう歩き方だ。右足を出す時には右半身がついていき、左足を前に出す時には左半身がついていく歩き方である。