灰いろの虹

北村周一

はじまりは点描にしてまたひとつ視野を抜けゆく雨とは光り

ぽつりまたぽつりとひらく点描の、雨は遠のく光りのうつつ

点描はことのはじまり ふる雨に濡れゆく屋根の瓦のいろも

雨白き条をひきつつすみやかに視野を抜けゆくまでの明るさ

ひぐれのち雨の気配はカンヴァスにありていろ濃く撓む空間

ひとすじの圧もてひらくつかの間を雨と呼びあう窓べの時間

絵は音に音は絵となるひとときを歌いだしたり雨垂れのごと

みたされしものから順に零れだす雨という名の後さきおもう

塗りのこし俄かに失せて雨音の変わりゆく見ゆ しろき雨脚

雨晴れて棚引きわたる灰いろの虹 たまゆらを天がけるゆめ

霽月や下田にひとりおとうとが島田にひとりいもうとが居り

*霽月・せいげつ 
雨がはれたあとの月。
くもりのないさっぱりとした心境にたとえる(広辞苑)