7 カラワン歌集
人と水牛《コン・ガップ・クワーイ》
人と人が田を耕す
人と水牛が田を耕す
人と水牛のいとなみは
深く長い
長い長いあいだいそしんできた
平和な労働
さあ行こう
鋤かついで田にでよう
無知と貧困に耐えぬいて
涙さえかわいた
恨みと憤りの胸のうち
どれほどの苦しみにも動じない
死の歌がひびく
ひとの尊厳は失われた
ブルジョアは労働を喰いものにし
農民を、低い階級
田舎者さと、蔑んだ
死のみがさだかなこと
コメのうた《プープ・カーウ》
めし手にとって食うたびに
思いおこせ
われらの汗食《は》んで
おまえが育ったことを
このコメの味は
すべての階級がひとしく味わうもの
そのかげには困窮と
身も細るつらいくらしがある
稲穂みのるまでの労働は
長い長い道のり
稲穂がめしつぶになるまでも
苦しくつらいことばかり
流れた汗のどのひと滴《しずく》も
苦渋の汗だ
おまえの口に運ばれるまでに
わが身はやせさらばえて筋ばり
血のにじむような汗はしたたる
おまえは今かみしめる
われらの血の結晶のすべてを
黄色い鳥《ノック・シールアン》
翼ひろげ街から
黄色い鳥がいく
自由にむかって翔びたった
君はもういない
…………(ハミング)
蒼穹《あおぞら》に浮かぶ雲が
たずねる、君は誰なのかと
翼いっぱい陽光《ひかり》あびて
君の夢みる世界は何色
…………(ハミング)
君はおぼえているかい
十月十四日、十五日のできごとを
君はおぼえているかい
血と涙と、人びとの悪夢のあとを
若者たちは、銃弾と催涙ガスのなかで死んだ
武器をもたないその手で、自由をもとめ
さあ沈黙しているのはやめよう
彼らの死に思いをはせよう
闘うぼくらのこころのはげましとなるように
雄々《おお》しい若者、翔んでいけ
かけがえのない夢のこし
君は巣を翔びたった
遺された者たちに哀悼《かなしみ》のこして
…………(ハミング)
翼ひろげ街から
黄色い鳥がいく
君は自由の魂
でも君はもういない
…………(ハミング)
グラー
グラー……グラー……
空の色かわき
地の色はつかれ
旱ばつたけり
ひあがった大地
グラーはちからつきて
ちからつきて 困憊
グラー……グラー……
雨こえど 雨なく
灼けつくひざし
ものみなこがす
はるかな地より来たりイサーンの民
長い耐乏のくらし
いずこの地へ行けばいい
いずこの地ヘ
グラー……グラー……
空の色かわき
地の色はつかれ
旱ばつたけり
ひあがった大地
グラーはちからつきて
ちからつきて 困憊
雨をまつ稲《カーウ・コーイ・フォン》
雨をまつ稲のように
かわききって死んでいく
望みはかなうことなく
あきらめた生命《いのち》
生まれ故郷すて
赤子かかえさまよう
ふたつの足踏みしめ
赤い陽《ひ》 道てらす
道てらす
勝利にいたる道
豊かな実りある田
資本家は滅びさる
雨をまつ稲のように
何人《いくたり》がかわききって死んでいく
何人が楽《らく》してくらす
人の背に乗ることは
水牛にまたがることとは違う
やめてくれ《ユツト・ゴーン》
ユット・ゴーン、ユット・ゴーン、ユット・ゴーン
ユット・ゴーン、ユット・ゴーン、ユット・ゴーン
ユット・ゴーン、ユット・ゴーン、ユット・ゴーン
ユット・ゴーン、ユット・ゴーン、ユット・ゴーン
やめてくれ兵隊さん、やめてくれ警官さん
敵の歌をうたうのは
深い泉から冷たい水を飲み
こころをあわせて考えよう
誰の銃弾《たま》が殺したのか
おとされたいのちは誰のもの
タイのため殺しあい血が流れる
それでも敵はもちこたえるものを
やめてくれ、頭脳明断な政治家さん
賢者で、策略家で、すべてを見通せる人たち
ユット・ゴーン、ユット・ゴーン、ユット・ゴーン
やめてちょっとでも考えてみてくれ
食い足りてデブデブ肥った人たち
あなたのそばの空腹の人たちのことを
やめてくれ、奪いとる資本家さん
あなたの麻袋は金貨でいっぱい
それでも満足ということを知らない
あなたはなんでもほしがる血筋
人の尊厳はこなごな
あなたが奴隷のようにおしつぶすから
あなたは知らない、あなたは知らない
持てる者だから
人の上に立って楽をしているから
やめてくれ、苦しんでいる人たち
銃や剣は最後にとるもの
確信をもったそのときに
あらがい、耐え、進もう
ユット・ゴーン、ユット・ゴーン、ユット・ゴーン
ユット・ゴーン、ユット・ゴーン、さあやめよう
澄んだ泉から冷たい水を飲み
こころをあわせて考えよう
うさぎとかめ《グラターイ・ガップ・タウ》
うさぎとかめが競争する
ゴールははるかかなた
いさみたった二匹
それぞれの想いで
コースを競う
うさぎの足とかめの足
長さは大違い
うさぎは速さに自信もちひと休み
かめは努力で勝利する
それぞれの道えらび
それぞれの星あおいで
勝利競いあう
遅れた者は道に迷う
うさぎはかめに敗れた
陽光《ひかり》の鳥やってきて
話しかける
どうして争いあう
勝利への道ともにしたらいい
眠っている友起こし
こころひとつにして
同じ道歩めばよいものを
村からの便り《マーイヘート・ジャーク・ムーバーン》
オオ…………
おれたちの村
おれたちの村
ずっとずっと昔から
家の霊《ピー・ファン》といっしょに
住みなれてきた
おれたちの村
街の悪魔《ピー・ムアン》がやってくる
疫病神《ピー・ハー》にもみまわれる
つらいときも楽しいときも
ともに過ごしてきた
オオ…………
読み書きも 学校もしらず
わき目もふらず
はたらくだけさ
森きりひらき
日に照りつけられて
はたらくだけさ
街の悪魔に吸いとられ
逃げるすべなく
耐えつづけ
やせさらばえた
オオ…………
今じゃ若い者らは
はるかなところ
としより子供ばかりの
さびれた村
死んだような静けさ
水牛、家畜はいなくなり
田は砂地となる
米、魚にもこと欠き
街への恨みはつのる
わざわいと欠乏ばかりに
寝てもさめても
こころ安らぐときもない
数しれぬ村むら
ジット・プミサク
彼は死んだ、森のはずれで
貧困と苦しみの地を
その血で赤く染めて
最期《おわり》の日彼は 山を降りる
大鷲の影のもとを
銃口は囲み 彼を餌食にする
なんたる幸運 四階級昇進、千の星
星は落ちて 彼の生涯の幕はとじる
予期しなかった最期《おわり》
幾百万の貧民に 数十人の富める者
この現実に恥じて
彼は闘う人となる
貧しい人びとの味方として
ペンをとり書き著わす
身は牢獄につながれても 心は自由
不正と闘うため生まれてきた
けれど残忍な権力は
行手にたちはだかる
斃れていったのはいくたりか
一九六五年 暗雲は空にたちこめる
大鷲の威光をおびて
家を捨て、都市《まち》を後にし
森に身を投じ
死を賭《と》した生活を選ぶ
六六年五月 日の光も色あせた
彼は牛車のわだちのそばに横たわる
この遺骸《なきがら》 この人がジット・プミサクなのか
この遺骸 この人がジット・プミサクなのか
森と人里のはざまで息絶えていた
彼は死んだ、森のはずれで
イサーンの地を赤く染めて
いつまでもいつまでも赤く染めて
彼は人知れず死んだ
がその名は今にとどろく
人びとはその名をたずね
すべてを知ろうとする
その人の名はジット・プミサク
思想家にして著述家
人びとの行手てらすあかり
十人の死が十万人を生む《ターイ・シップ・グート・セーン》
現実をみてごらん
友よ、同胞《はらから》よ
現実をみてごらん
何が善で何が悪かを
多くの人びとの
苦しみと死を
「弾圧」という名の歌
うたう悪人どもを
いたるところにいる
憤った人びとを
気づかないのか
赤い血に染まった死者を
彼らに迫害され
追いつめられ、追いつめられ
暗殺された
真実という正義に
よって立ち
正義のため死んだ
その死はこころに刻まれる
十人の死が十万人を生み
失なわれたいのちにとってかわる
鎌の鋭い刃は
きらりとひかり
激しくまわる歯車が
収奪者をこらしめる
学生、市民
すべての苦しめる人びと
連帯しよう
剣と銃が闘いに立ちあがる
そしてその日がわれらのものとなる
やってくる やってくる
輝ける勝利の日が
こころあわせ
ちからあわせ、たたかおう
こころあわせ
敵を撃とう
ひとつになったこころは
強い民族の絆《きずな》
奴隷でない自由の民《タイ》は
生みだす力
奪いとる者は
叩かれねばならない
働くことができ食べることができる
主人《あるじ》のない社会
わたしたちには真理がある
誰でも平等だという
働いて働いて
しあわせになれる社会
新しい社会、新しい人間
奴隷でないタイ(自由の民)となる日
おいで、集まっておいで
民衆、新しい主人《あるじ》と
出会うために
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