サザンカの家(四)

北村周一

そらひくく飛ぶとりあれはメジロにて眼に追いたればこうはく梅図
昇りつつメジロは知るやはろばろとみぎりひだりにサクラぜんせん

くれないの花もそぞろにあきらめてメジロははやもわが視野のそと
とりどりのはなからはなへ路地を来て去りゆくみれば目白なりけり

めじろふたつさきを急ぐと見せかけてつばさやすめりツバキの枝に
紅ツバキの木みごとなれども苦しそう 目白はきらうおもおもしきは

花すいとも呼ばるる鳥のこえは優し めぜめよと聞こえくるらしその声
うち羽振りこえなき声に鳴くとりのこえは近しもわがかざかみに

はなかげに花すいふたつふうわりと揺れいたるなりどちらか身おも
どちらともなく交わす目くばせ番いかな メジロすばやし春が来ている

めじろの目よりちかいところに我があるを すがた消したりふり向きざまに
多角的視野もつとりの眼下にはすでに来ている絵を描くおとこ

メジロらのねぐらはいずこと垣根ごしにとおくみており西方のひと

遁げる刹那
せつなにうたう
恍惚は
メジロのみ知る
その世界観

うらにわの見映えよろしき医者の家 メジロはしげく寄り来たるらし
みるともなく庭のさざんか眺めおればめじろ来ておりそのはなかげに

さえずりは長兵衛忠兵衛長忠兵衛繍眼児いじらしオスのみに啼く
宙宇へのきりぎしにして天竜の土手に囀る春つげ鳥は

やがてはのそりのそりとも水牛はくる リュウキュウメジロはその背なに舞う
老いもわかきもメジロとなりて降りつつ頭上はるけしそのかげにわれ