セイタカアワダチソウを見つめて

北村周一

~花言葉唯我独尊嫌われて背高秋の麒麟草かな

天竜(浜松市)に越してきてまもなく一年が経とうとしています。
ことしはことのほか暑くて、ミカンも栗も大豆もトマトも不作だと地元の人たちが嘆いています。
そのかわり、ウサギやらシカやらイノシシやクマまでもが近くまでやって来て往生しているとのことでした。
しかしそんな暑さにもめげず、われらがセイタカアワダチソウはぐんぐんと勢力を伸ばし、天竜川の土手に限らずあちらこちらの空き地に居場所を見つけ、10月の半ばごろからは黄色の花を満開にして、まるで栄華を誇っているかのように咲き乱れているのでありました。
背の高いものは2メートルを優に超えています。
あまりに美しい光景にしばし見惚れてしまうほどです。
このセイタカアワダチソウを題材にしてかつて作品を発表したことがありました。
だいぶ前の話ですが、そのときに書いた文章をここに再掲したく思います。

~セイタカの草草は闇にしずめ置きすすき野原に午後の日のどか

   *
赤は赤らしく、黄色はこがねにかがやきを増して、ことしの紅葉は目を見張るばかりに美しい。葉陰にも色が滲み出るかのような秋の景色のなか、セイタカアワダチソウの満開の花々が黄金色の房々を日の光りに遊ばせている。ここ利根川の河川敷でも、そしてわが境川(東京都町田市と神奈川県相模原市の県境を流れる)の川原でも。
今秋、C・A・M・P「場所・群馬」展(前橋芸術会館)に出品の機会を得、かねてより気になっていたセイタカアワダチソウを素材にして作品をつくることになった。タイトルは、「イエロー・メッセージ」、セイタカアワダチソウをアメリカ型様式のひとつのモデルとして捉えてみようとする試みである。 
北アメリカ原産の帰化植物であるセイタカアワダチソウは、第二次世界大戦後日本各地に広まったといわれている。だが、そのすがた、その生命力の強さゆえか、あるいは花粉症の原因としても疑われたためか、この植物によい印象をもつ人は少ない。さらに根や地下茎から、他の植物の種子発芽を抑える物質を分泌して繁殖していることもあり、9・11以降なおさらイメージが悪い。そこで、この悪名高きセイタカアワダチソウの生態を調べてみることにした。
以下は、岡山理科大学波田研のHPからの抜粋である。
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もともとは鑑賞用に導入されたとの説もあるが、急速に広まったのは第二次大戦後のこと。蜜源植物として優秀なので養蜂業者が積極的に種子を散布したとの話もある。
和名の由来は、同じ属のアキノキリンソウの別名アワダチソウより草丈が高いことによる。多年生草本、地下部からアレロパシー 物質(ポリアセチレン化合物など)を分泌し種子発芽を抑制する。そのため新たな植物の侵入は困難になり、地下茎で繁殖するセイタカアワダチソウの天下となる。
ただしこのような能力は、セイタカアワダチソウに限ったものではなく、ヨモギやヒメジョオン属の植物も同様な能力をもつことが知られている。ススキなどのイネ科植物の発芽を抑制するという。セイタカアワダチソウやヨモギが繁茂すると当面これらの植物が覇権を握ることになるが、その時点でススキが侵入しているならば、やがてゆっくりとではあるが、ススキが広がって上層を覆い光を遮りススキ草原へと遷移することになろう。
実はセイタカアワダチソウは、蜜源植物でもあることからわかるように花粉をミツバチなどの昆虫によって媒介させる植物であり、花粉を風に乗せてばらまく植物(風媒花)ではない。つまり花粉アレルギーの元凶ではなかったのだ。ならば、このセイタカアワダチソウへの対応があらためられてもよいのであるが、いったん広がった風評はなかなかあらためられない。
旺盛な成長力を利用し、法面の緑化などへの利用も検討されたが、イメージが悪いので実施には移されていない。しかしながら、現実の法面では表土の流出防止には貢献しているともいえる。茎はなかなか丈夫であり、ニュー萩という名前で袖垣などに加工されたりする。
場所や環境が異なれば、この花への印象も全く異なるようで、風光明媚な観光地で調査をしていると「この美しい花の名前を教えてください。」などと聞かれることもあり、苦笑してしまう。以上。
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各地の湖沼で日本原産の川魚を駆逐しているブラックバス、ブルーギルなどに比べれば、同じ帰化種ながらセイタカアワダチソウはむしろ有益な植物だといえる。土のあるところなら、それこそどこでも一様に見られる分、損をしているのかもしれない。
11月半ばすぎ、わが四駆ジムニーの車窓から見えるセイタカアワダチソウの草々は、綿毛を溜めて光りかがやいていた。米国生まれのコーラやハンバーガーにかわるシンボルとして見ることはできるとしても、帰化種として根付いたセイタカアワダチソウのすがたは、ダムやテトラポットなどの人工物が風景の一部として視野に入ってくるのと同様に、いまや日本の風景として馴染んでいるともいえよう。少なくとも国土荒廃のメタファとして扱う素材ではないようだ。
(2001年11月)

付記Ⅰ 
セイタカアワダチソウ;学名 Solidago altissima Linn  
           英名 Tall goldenrod                                        
           綱名 双子葉植物綱合弁花亜綱
              キク科アキノキリンソウ属
付記Ⅱ 
イエローといえば、思い出すことごとがある。いささか古い内容だけれど、いまもなお引っかかっている(点滅している)ので、書きとめてみたい。

ヘルペスの信号
コンセプトあるいは決意表明にかえて

朝日新聞、1987年12月11日付夕刊によれば(やや古い記事で恐縮ですが)、あのヘルペス・ウイルスが悪さをせずに“休眠”しているあいだ、一個だけ(健気にも)働きつづける遺伝子があり、この遺伝子が他の遺伝子の活動を抑え眠らせているのではないかという仮説が発表されました。
つまり、「オフ」スイッチに相当する遺伝子が、ストレスやホルモンの変化などが引き金となって急激に増殖するウイルスを、眠らせつづける(役目を担っている)というわけです。
ちなみに単純ヘルペス(唇のまわりに小さな水泡をつくる)ウイルスⅠ型は、米国人の約2/3に感染しているそうです。
願わくは、「ヘルペスの信号」が活発に働きつづけるよう、見守っていただきたいと思います。

以上は1989年4月の、ヘルペスの“青”信号展におけるコメント
以下は1991年9月の、ヘルペスの“黄”信号展におけるコメント 

「オフ」スイッチは働きつづけているか?
残念ながらその活動は鈍ってきたようです。
黄色の信号が点ってしまいました。
ご存知のように、スイッチが働いていれば、他の約80個の遺伝子は休眠したままです。感染しても発病せずにすむわけです。
詳しく知るということが元気を与えてくれる好例でしょう。
もしかしたら他のいろいろなウイルスも、同じようなスイッチをもっているかもしれません。
ところで、ヘルペスと呼ばれる病気には3種類があり、いわゆる帯状疱疹、それに単純ヘルペスⅠ型とⅡ型とに分かれます。
Ⅱ型はたいへん恐い病気ですが、Ⅰ型は風邪みたいなものです。
けれどもウイルスが体内を素通りしてしまう人と、どういうわけか残ってしまう人がいて、何度も再発の憂き目にあうのです。
(もうおわかりのことと思いますが)、「ヘルペスの信号」展においては、ヘルペスではなく“信号”に意味があります。
なお、今回の4人によるグループ展について少し説明しますと、活動の場が近かったこと、年齢が同じ位(1951、52、53年生れ)加えて身長も同じ位、この程度の理由に依拠した発表となります。
たぶん黄色のオフ信号は、これからもながくながく点滅しつづけることになるでしょう。

追記
イエローの点滅は、往々にして危機管理能力の有無、あるいは評価をも想起させる。この先に極めて危険な領域があり、それをいち早く察知した者が回避させたとする。のちに、この先に「それ」があったのだと周囲の者に語ってみたとしよう。すでに平穏な状態にあれば、コトはなかったこととして認知されるだろう。病は病として、あやまちはあやまちとして「かたち」にならないと、人は納得しないのかもしれない。(2002年2月8日)

~伸びすぎてプールサイドに枯らしゆく草の背高見るかげもなし

   *
黄色という色は、光りの具合によっては黄金色に見えることがあります。
自家用車に黄色を選ぶ人は、スピードマニアといわれたりします。
一方安全を考えて、マイカーは黄色と決めているオーナーもそれなりにいます。
黄色はかように目立つ色彩でもあり、また注意喚起を促す色でもあります。
交差点の信号が、青から赤に変わるとき、しばらく黄色が灯ります(歩行者用の信号は青の点滅)。ある意味、緊張を強いられる瞬間でもあります。
前に進むか、停止するかの判断を迫られるからです。(基本は止まれ)

~三日月も星のひとつと見上げたれば青の点滅われを急かしむ

ところでこの時期、地球上にはどのくらいの量のセイタカアワダチソウが満開をむかえているでしょうか?
遠くから見たら、黄色の帯または黄色の斑点が群れを成して、なにごとか物語るように目に入ってくるかもしれません。