版画のように

北村周一

さみしいね、同じことばがあなたから版画のように波打ち際を

友はサクわれにはサクラチルという文のとどきし曇り日のこと

剪定を終えたばかりの木々のあのフォルム好きだな人工的で

上下左右の二本の線のこちら側にぼくはいるので逢えませんよね

あみ棚のフェンスもようが隣人の動画がめんに映えてうつくし

水溜りにあゆみ止まりしわが子らへおおらかに声をかけゆく保母さん

澱みなきひかり湛えし園庭の溜りのみずの静かなことも

葉枯れせし遮光カーテンまなび舎の屋根まで伸びて糸瓜となりぬ

ねむたそうなシグナルぬるきボールペン夜が明けたらドクダミを抜く

胸のべに触るるばかりに伸びいたる花のコスモス盛りは過ぎつ

童謡のうたのかずだけ白秋がいるようなあきのふかまり〈恋文〉を読む

足るを知れと言われて少しかんがえてコップをきょうはさかずきにする

町田駅連絡通路に躓いて泳ぐ左右の自分の手足

谷崎は鉄道病と名付けしがパニック障害病む時は病む

此れの世の未来おぞましひとつふたつ撥ねてみたっていいじゃないばか