短いてがみ

北村周一

受話器から
友の声あり
「サクラサク」 
文を手に手に
チルわがいたり

友はサク
われにはサクラ
チルという
文の届きし
春の日のこと

「春」を待つ
サクラ花びら
はらはらと 
文待つのみの
春の気怠さ

花咲けば
散るを憂うる
親もいて
来ては遠のく
郵便バイク

投稿歌
したため直して
ポストまで 
撓垂れかかる
米屋の国旗

書くよりも
手紙出すときにわれ
緊張す 
赤き郵便
ポストの前で

一瞬の
ためらいののちに
出す封書 
おもさ失くせし
てのひらを抜く

海の向こうへ
わたり損ねし
画家宛ての
メールがひとつ
届かずにいる

置き去りに
されたメールが
和蘭の
ひかりの粒を
夢みる九月

あかねさす
日にいできては
メール打つ 
義父危篤の文字は
薄れゆくのみ

一行に
終わるいちにち
みずからの
言葉もたねば
籠るほかなし

よみ手なき
ブログを今日も
書き終えて
ひとりのみゆく
うたうたうため

遠近(おちこち)より
ムーン情報
集いおり 
月は見えねど
秋深みかも

秋なのに
どこを切っても
自分しか
いないブログの
らららな世界

どこからか
飛んで来たので
あろうけど
ひかり回線
この世はコトバ

ひんぱんに
テレビの窓に
顔を出す
ひとらどなたも
声は勇まし

品切れの
棚くうかんに
弁明の
文字が居ならぶ
あるところにはある

マスクして
手袋をして
交わりの
ことば少なに
レジ打つひとよ

短冊の
ごとき用紙に
名をしるし
祀らんごとも
投票箱へ

ささの葉の
新芽のほどの
おもさもて
渡されている
投票用紙

痛みある
ところにあてて
綴り置く
きょうの日付の
短いてがみ

絵日記の
ように汚れて
しまうから
苦手なのかも
ながい手紙は

目障りな
あなた要らない
つくづくと
絵巻物めく
書面賑わし

あとからは
何とでも言える
ささらさら
原告からの
書面(2)を読む

能う限り
簡潔にあれと
思えども
法律文書は
漢字多けれ

生命線
ほつれやすくて
歿年の
彫られしきみの
お墓あたらし

花言葉
唯我独尊
嫌われて
背高秋の
麒麟草かな