アパート日記4月

吉良幸子

4/1 月
どうしても神保町へ行きたいので、映画の日にかこつけて行く。エノケンを1本観て、落語のCDとカセットを買って、ランチョンでお昼を食べて帰る。なんと楽しい休日。出稼ぎ先が遠なったから通勤中に長い落語でも最後まで聴ける。明日から楽しみや。

4/3 水
人生で初めてパーマをあてた。強めにやってくれたからくるっくるになる。短髪やしベティちゃんみたいね、と公子さんに言われた。あんなにセクシーじゃないけど、ちょっとの間、浪花のベティちゃんでいこか。

4/8 月
先月末岩国へ行き、そんまま実家に寄って東京へ戻った。そこから贅沢なことにも銭湯暮らしで、家のシャワーを1週間以上使ってなかったことになる。久しぶりに家でシャワーと開けたら、ねずみ捕りに小ねずみが3匹も丸くなっておった。朝一でギャァァァーと叫んでねずみたちに平謝りしながら処理する。どっから入るねんろ、ほんま色々出るアパートや。

4/9 火
丹さんがアパートへ来て久しぶりに会うた。昨日のねずみ話をしたら、丹さんは先月末、冷蔵庫の後ろで丸々と太って果てたヤツ1匹を…と思わず台所でねずみ会談。床に座って話してたら、ソラちゃんまで輪に入って熱心に聞いておる。あんたは連れてきて家ン中で逃すだけやがな!とつっこんだ。

4/10 水
長谷川町子美術館へ。企画展示は「長谷川町子のデザイン」。サザエさん連載中の題字がバリエーション豊かでずっと見てられる。単行本の原画から新聞広告、グッズ展開など色々あって面白い展示やった。常設展示のとこに、気晴らしで作っていたという人形があってそれがまたうまい!展示期間が長いしまた来よう。とりあえず図書館でエプロンおばさんを借りて読みはじめた。

4/12 金
最近のソラちゃんのブームは、公子さんの横でおしりに手ぬぐいかけてもらい、あやしてもらいながら寝ること。甘えたのおっさん猫が何やってんだか。夜中になると手ぬぐいを尻尾にさげたまま私のとこへ来て、ごはんくださいと言うてくる。お風呂上がりみたいでかわいいやないの。

4/13 土
仕事終わりに急いで「雷門助六一門会」へ。音助さんには来週のいわと寄席でお世話になる。助六師匠はいつもにこにこしながら高座に上がるので出てくると嬉しい噺家さんのひとり。末廣亭5月の上席は助六師匠がトリ。賑やかに踊るらしい。観にゆこう。

4/17 金
この前実家に帰った時はちょうど年度末で、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の最終回を観た。服部良一ええなぁ…と図書館でCDを数枚借りて携帯に曲を入れる。出稼ぎ先で準備中はずっとそのCDを流すことにした。一緒に働いてるおばちゃんも気に入ってくれて、2人でちょっとデュエットしながらごきげんに準備する。昔の歌は歌詞がとにかくおもろい。『チャッカリ・ルンバ』なんて聞いてて笑ってまう。

4/21 日
卯月のいわと寄席、金原亭馬久さんと雷門音助さんの会。2人っきりでやるの初めてらしいけど、2人ともとっても楽しそうやった。好きな噺家を裏方やりながらいわと寄席で聴けると、この上なく嬉しい。帰りしなに会場が入っているビルの一階で、天ぷら屋さんのおかみさんと会う。店主が倒れて閉店してしもうたらしく、食器類の中からどれでもお好きなのどうぞ、と言われる。土鍋や湯飲みなどええもんばっかし。焼酎用の黒ぢょかとおちょこのセットをもらってきた。公子さんも酒を入れる器をもらってきてる。アパートの酒飲み環境はこうしてどんどん良くなってゆく。

4/24 水
今週から出稼ぎ先がちょっと大変やし、のみ込まれんように気晴らしも多めに。いや、普段から仕事もそこそこやけど。今日は桂吉弥さんの独演会へ。朝が早くとも帰りに落語会へ行けるのはほんまにありがたい。『百年目』の後半に地震があって、聴いてる方はちょっと現実に引き戻された感じがした。でも吉弥さんは揺れがこようがなんにも動じず続けてはって、さすがやなぁと感心の方がまさった。

4/25 木
何週間も前から自分の部屋が山のような服に占拠されて汚すぎる。ようやく重い腰を上げて部屋の片付けと衣替えをした。夜には見違えるようにきれいな部屋になった。最近のアパート組みのハヤリ、日本酒でおつかれの乾杯。同郷・兵庫の剣菱が何と言ってもおいしい。小さい瓶のんはみな飲んでしもて、遂に一升瓶を買うてしもた。ああ、たのし。

4/29 月・祝
『喜劇 あゝ軍歌』を観にゆく。今やったら不謹慎やとか何とか言われることをやりまくった映画。不謹慎がなんぼのもんじゃい。むちゃくちゃ面白くて笑った。その後、数ヶ月間夢にまで見た下駄を作りに品川へ。連休やからかお店が混んでる。鼻緒をどれにするか散々迷って細めの赤いのをすげてもらう。よく考えたら鼻緒は後から調節も取り替えもできる。下駄ってほんまにようできた履物やね。

4/30 火
今月最後の会は「松鯉・鯉昇 二人会」。真ん中に座ったら拍手の圧が二つ目さんの会とは全然違うた。近くで松鯉先生を拝めて嬉しい。鯉昇師匠は顔がどことなーく去年亡くなったばぁちゃんに似てて、あぁ、ばぁちゃんが落語したらこんなかな?なんて時々思った。おふたりでやる会があったらまた行きたい。