古屋日記 2026年1月

吉良幸子

1/1 元旦
大晦日から年明けはお稲荷さんの狐の行列を見に行ってたし、朝はお寝坊さん。昼前に起きて大晦日に買うておった串団子を火鉢で炙って食べる。当然うまい!今日はお餅尽くしで、お雑煮におしるこに…と、なんべんも火鉢で焼いたお餅を食べた。正月が過ぎるとお餅に飽きるとか世間は言うけど、うちにはそんなこと全然あらへん。公子さんはお昼過ぎにさくらさんのお迎えで向島へ。私はどうもまだ眠く、ソラちゃんと一緒に昼寝をして、王子神社へ新年のご挨拶に行こかと着物を着る。ちょっとそこまでやし、胸元にお財布と古札だけ差して手ぶらでぷらぷら行ったら、もう薄暗くなるというのに道の方まで参拝する人が並んでおるではないか!諦めるには着物まで着てるし悔しい、ということで最後尾について道端で待つ。嗚呼、こんなさぶい中立っとかんとあかんのやったら、もうちょっとあったかくしてくればよかったなぁ~なんて思ってみたところで大鳥居までもまだ遠い。私のひとつ前に家族が並んでおって、あったかいコーヒーを飲みながら、例年やったらガードマンのおっちゃんがおるからもっとスイスイ進むのになぁと嘆いておった。ふと見ると確かに拝殿前の坂のとこで人が溜まっておる。まぁそういうことやったらしゃぁないか…と思いながら空を見上げると、綺麗なお月さんがのぼってきておった。小一時間待って、とにかくご挨拶だけはできた。古札を返し、甘酒をいただいて神社を後にする。と、帰り道にお稲荷さんも通るから寄ってみると、年明けすぐの人だかりが嘘みたいにしんっとしておった。人もまばら。こちらでは、昨晩はどかどかと失礼しました、としみじみ言うて家に帰る。公子さんはすでに帰っておって、もろてきたおせちをいただいた。なんやかんやでごちそういっぱいのお正月やった。

1/2 金
まだ年が明けて2日目やというのに演芸場で仕事始め。演芸場自体は昨日の夜から始まっておるし、浅草の方はなんと12/30が初日という大興行月がすでに幕開けしておった。今月は座長の誕生日の月で特別公演が多々ある。ゲストさんも多いし、なんせ人気のある劇団さん。ともかくさぶいけどがんばろと思う。

1/8 木
新年、初の近所の蕎麦屋。腹をすかして公子さんと夕方行くと結構賑わっておった。なんで年末年始すぐ行かへんかったかというと、年越し蕎麦で忙しくなるからお酒とアテの提供がその期間なかったから。今日から解禁ということでいそいそとやって来たというわけ。去年と変わらず東薫の生酒にちくわの磯辺揚げ、味噌田楽とお蕎麦一枚で十分お腹いっぱいになった。80をとうに越したおばあちゃんは年始も休まず働いてはって、お勘定の時、御年賀にどうぞとボールペン1本くれはった。

1/9 金
今年最初の落語会を観に渋谷へ。金曜日の夜にわざわざ渋谷まで行くなんて、あの町の喧騒が嫌いなくせに頭おかしんとちゃうかと言われそうやけど、こしら師匠が出るというので重い腰を上げて出かける。あんまし人がわっと集まってない道を抜けて、クノイチのように会場を目指す。この会場は初めて行ったけど、落語会にしては立派すぎるふかふかな椅子で、お客さんがめり込むように座るから高座がどうも低い。初めての人でもふらっと来れるようにというコンセプトとは裏腹に、建物の閉塞感もあいまって、なんとなくずんと空気が重たくて笑いずらい感じ。落語会としてはあんましやったけど、その代わり去年自分たちが主催した会がどんだけ楽しくて賑やかな雰囲気ででけたんかということを身に染みて感じられた。うちらがやってたんは間違ってへんかったんやわ!と実感できて、それが大きい収穫やった。

1/14 水
未だに東京のお蕎麦屋さんの汁は、出汁文化の私にとっては塩からいと言うたんを公子さんは気にしてくれてはって、家で汁物を作りはる時はうんと薄めのお出汁にしてくれはる。お昼にお豆腐屋さんのお揚げさんが入ったきつねうどんを作ってくれはって、むちゃくちゃおいしかった。東京でこんな透き通ったお出汁のうどんを食べれるなんて感動!晩ご飯には近くの卸売市場で買ってきたしじみを砂抜きしてしじみ汁にしてくれはった。おいしいもんばっかし食べておる。

1/15 木
小正月ということで今日はお休みする。演芸場は連日特別公演やったのもあってくたくた。ソラちゃんは最近、2階へトントントンッと小気味良いリズムで上がってきて、私が寝てようが寝てまいが、お布団へ入れてくださいと言うてくる。寝てる時は勿論ええねんけど、隣の部屋で仕事してても、どうしてもお布団の方へ来てほしいと催促がある。まぁ、部屋も寒いし根負けして布団に入ってしまうんやけども。そういうわけで、今日はべったりソラちゃんと一緒によう寝た。晩ご飯に公子さんが作ったおいしい焼きそばを食べて、今年初銭湯へ。家が近いから自分の桶を持って行ってんねんけど、お風呂屋の大将から、懐かしいもん持ってんね~でもタガを磨かなきゃと言われた。そういえばちょっとくすんできたみたい。ピカピカにしたらもっと愛着湧くかしら。

1/16 金
朝から山手線が止まり、京浜東北線が止まり…なんだか演芸場の前を歩く人も慌ただしい。そんな中、埼京線まで遅延しだし、今日の昼の部お客さん来れる!?と劇団のマネージャーさんと心配していると、案の定、電車が動かないのでキャンセルで…という電話が。そらしゃあないわなぁ…と言うてると、ちらほらと常連さんがやって来るではないか!タクシー使って来はったり、何時間もかけて乗り継いで来はったり…愛やなぁ。

1/21 水
図書館のええところのひとつに、CDやDVDを借りれることがある。世田谷におった時は米朝さんのCDをぎょうさん借りた。今ちょくちょく行く図書館は大きくてまだ隅から隅まで見れてへんけど、この前DVDの棚で藤山寛美の舞台がたくさんあるのを発見。手始めに『吉野狐』を借りた。上方落語を下地にした作品で、むちゃむちゃおもろかった。寛美さんの舞台は図書館に10枚くらいあったから順番に観ていこと思う。

1/23 金
芥川の展示を見に田端へ。「余暇のたのしみ」という企画展なだけあって、絵や俳句、その他色々もあったけど、それよりも面白かったのは芥川の家を復元模型にしたもので、小さい模型をあっちこっちから覗き込んだ。書斎は特に興味があって、自分の部屋の参考に…と隅々まで見て楽しんだ。この家を模した記念館を建設中らしく、できあがるのが楽しみや。ここは田端文化村の展示もしていて、ロビーにあった田端周辺の地図に王子くらいまで入ったものがあり、そこに卵焼きの扇屋があった。やや!?これは落語『王子の狐』の舞台になった、アノ卵焼き屋のことか!?と思い、帰り道に寄ってみたら、ツタが茂った小さな売店でおばあちゃんが卵焼きを袋に詰めているところやった。いつ通っても人が座ってるところ見たことなかったのに、今日は座ってはるなんてついてる!と大きな卵焼きをひとつ買って帰った。食べてみると、今はあんまし見かけへん甘い卵焼きで、いかにもこんこんさん(寛美さんがそう言うてはったし、私も狐のことはこう言うことにする)が好きそうな優しい味やった。

1/27 火
今日は演芸場で1日仕事、その後に娘ちゃんと同僚もうひとりの3人で飲みに行く約束。朝から娘ちゃんはウッキウキ。そして今日は座長の誕生日でもあり、誕生日公演が別であったにも関わらず、多くのお客さんがお祝いにつめかけた。誕生日公演4日間、そこに誕生日当日分も合わせてホールのケーキを5つ持ってくるお客さん、しかも全部違うお店の色んな種類のケーキという気遣い!愛やなぁ…と思ったのも束の間、今日は座長の舞踊に、私は今まで見たことないくらいのお花が付き、着物や和傘のプレゼントまで…すっごい世界やなぁ…と久しぶりにこの世界の凄みを感じた。
夜仕事が終わって駅前の飲み屋へルンルンで行く。そしたらこの世で一番薄いと思われる程、ほぼ水の酒が出てきてびっくりした。何を頼んでも驚きの薄さ、客が憎いかそれとも酒が惜しいのか。何杯飲んでも仕方ないから2軒目へ。あーだこーだ喋ってたら夜更けになり、家へはそぉっと帰り、忍足で2階へ上がるとソラちゃんがにゃんにゃん言いながら挨拶に来てくれた。ひとしきり撫でてかわいいなぁと言うてたら、満足したのかまたすぐ公子さんのとこへ。一緒に寝てくれへんらしく仕方なくひとりで布団に入った。

1/29 木
怒涛の1月公演の千秋楽。今年の1月は長かった!でも大変やった分、お客さんとも仲良くしてもろたし、ずっと木戸に出てきてくれてはったマネージャーさんや照明さんともお別れになるのはいつもにも増して淋しい。今日の演目は落語の演目でもある『文七元結』。働いてるしちゃんと観たわけやないけど、落語で聴く人情噺っぽくなく、途中でワハハと笑い声が聞こえて楽しそうやった。落語の演目がたまに出ると途端に観たい!と思うけど、まぁそれはまたの機会に。昼の部が終わってお客さんとはさよなら、大掃除が始まる。今月はずっとお客さんが多かったし、場内も廊下もトイレもいつもにも増して念入りに掃除する。夕方から楽屋の掃除に入り、夜になって今月は打ち上げに駅前まで飲みに行った。実は一緒に働いてた娘ちゃんが今日で仕事納め、それも淋しい話で、また飲みに行ったり遊びには行くやろけどとりあえず仕事はここで終わり。逆に新しい人も入ったからその歓迎会でもあったんやけど、最後の方、若女将と新人ちゃんたちがベロベロで見てておもろかった。

1/31 土
待ちに待った歌舞伎座で剣菱飲む日!たまたま見つけたイベントで、歌舞伎座タワーの会場で、剣菱の社長の話を聞き、剣菱飲みながら助六弁当を食べるという最高な飲兵衛イベント。家に剣菱を常備する身なら行かねばならぬ!と申し込んだのであった。歌舞伎座に行くのが初めてで、立派な建物やなぁ~としみじみ見てから地下のエレベーターで会場へ向かう。どんな人が来るんかいな?と思っておったけど、日本酒関係の仕事をしてると思わしき人からただの酒好きまで、色んな人が120人くらい。好きなとこに座ってくださいと言われ、好きも何も…と思いながら壁際の席に座る。徳利はご近所さんと分け合って飲んでくださいと書かれてて、どんな人が来るんやろか…と最初はびびっておったんやけど、幸いにも隣に日本酒好きのお姉さん2人、そのもうひとつ奥にも酒好きのおっちゃんが来はって終始楽しく飲めた。剣菱の歴史や今やってはることなど、社長がざっくばらんに話しはる方で面白かった。助六弁当は正直、こんなもんなん…?というくらい少なくて、酒を飲むアテがなくてどんどん酒が回った。討ち入り前にみんなで飲んだという剣菱、吉良も愛飲してまっせと心で思う。社長の持論で、甘いもんでも剣菱は合う!と羊羹も卓上に置いてあって、私も家でおしること一緒に剣菱飲んでるし、気持ちわかるなぁと羊羹とおいしくいただいた。ともかく剣菱好きな人たちが色々に昼間っから集まって、名前もよう知らんけど一緒に酒飲んでわいわい話してるというのがおもろい風景で、愉快な会やった。
夕方に終わって酔っ払いながら新橋の方面へ歩く。風が冷たくて今日はありがたい、これでちょっとは酔いも覚めるやろ。せっかく銀座に来たということで、前の職場を目指す。お世話になった店長と、筆職人さんにも会えてよかった。ちょっと話して帰ろか…と思うも、せっかくここまで来たんやし、とつい金春湯に寄ってしまった。良い子は真似をしないように。今日もきっかり43度もあるお湯に使ってちょっと酒が回る。あっつい湯につかると血液がぐるぐると巡って気持ち悪い。なんとか倒れずに風呂から上がり、また歩いて有楽町まで戻る。電車に乗る方が酔いそうやから歩くのがちょうどよかった。無事に帰宅して、ご飯食べて炭団に火もつけて、ちょっと仕事…と思ったのに、どうしても眠たくて眠たくて布団に潜り込んでしもた。嗚呼、日記まだ書けてへんのに…と思いながら1月が終わっていく。