新・エリック・サティ作品集ができるまで(3)

服部玲治

軌道修正。間髪入れず。
いささか壮大な「コロムビア×高橋悠治プロジェクト」の提案は、悠治さんのひとことで取り下げとなったものの、それがために、せっかく気持ちが向いてくれているサティすら成就しなかったら目も当てられぬ。
それまでの流れは無かったかのようにふるまい、本題のサティを切りだす。
現在80曲ほど遺されているサティの作品すべてを記したリストを差しだし検討を始めた。
リストには、録音を希望する曲にしるしを付けてあった。当初は、旧録音には収録されていない曲を中心に構成することも考えたが、やはり、王道的なレパートリーもバランスよく入れて話題性を喚起したい。
「ジムノペディ」や「グノシエンヌ」、「ノクターン」などをメインに据えつつ、そこに旧録音には入ってなかった「星たちの息子」「サラバンド」や「愛撫」「メデューサの罠」などを組み合わせて丸をふっていった。
そのリストを一瞥した悠治さん、わたしの希望する渾身の丸はそこそこに、こうおっしゃる。
「新たに最近出版された作品を含め、子供のために作曲した作品を中心にだったら」。
サティはいまなお新たに発見される曲があり、サティブームと言われていた70~80年代にさまざまなピアニストによって録音された全集には収録されていない曲がいくつもある。
以前の録音時にはこの世に存在が知られてなかった「新・子供の音楽集」と「コ・クォの子どもの頃」のことを悠治さんは教えてくださった。
なるほど、とても面白い。元来のサティ好きとしての心中はそうつぶやいている。ただ、もうひとりの音盤プロデューサーとしての自分とせめぎあう。サティといえば、のジムノペディのような王道曲と組み合わせるならばもちろん素敵だが、「子供のための作品集」というフレームだと、押しがいささか弱くなるやもしれぬ。ついさっき、「高橋悠治×コロムビアプロジェクト」で風呂敷をひろげた際には、シュールホフやらヴィシュネグラツスキやら、王道とは言えない作曲家の提案をした人間が何をかいわんや、である。
とはいえ、ひとつのポジティヴな提案が仙人、否、悠治さんから提案されたことがなにより嬉しく、その日はいただいたコンセプトを満場一致の面持ちで歓迎したように思う。
 
その後、悠治さんとのコンタクトは、ほかならぬこちらの事情でしばらく途絶えてしまった。わたしが担当する別の音楽家、冨田勲氏が逝去し、その追悼公演の制作に追われてしまったのだ。気づけばもう年末。お詫びをしつつメールをすると、翌朝には返信が。
「何を入れるか もうすこし考えてから と思っています/いままで出た曲目だと 定番のジムノペディ それに入れてなかったサラバンドくらいですか」
定番のジムノペディ、という文字に目が釘付けとなった。はて、「子供のための作品集」は?