「しば漬食べたい・・」先日、ムラセさんちのボブが(ってだれやねん)、しば漬けを仕込んだ、毎年彼が仕込んでいるという話を聞き、それ以来ヒバリの頭の中で「しば漬食べたい・・」というフレーズが現れては消え、現れては消えしていた。
しば漬けというのは、赤ムラサキ色に染まった、コリコリしたナスやキュウリの漬物である。「しば漬食べたい・・」というのは90年代初めのフジッコ「漬け物百選」のテレビCMのフレーズだが、コンビニに駆けつけても、売っているのは添加物たっぷりの甘ったるい即席調味漬のものばかり。添加物のない昔ながらの漬物をコンビニやスーパーマーケットで見つけるのは至難の業だ。
しば漬は自分で作れるのか・・しば漬は複雑な工程なので漬物屋さんでしか作れないものと思っていた。ふだん料理をしないボブが作れるのであるなら、ヒバリにも作れるかもしれない。あの赤ムラサキ色は赤シソから出る色であろう。うう、もう、とっくに赤シソの季節は終わっているなあ・・あ、あれがあるじゃないかっ。
先日、九州の菊之助さん謹製のカボス果汁入り赤シソジュースを購入していたのである。菊之助さんのシソジュースは砂糖が入っておらず甘くないのだ。
「ふ~む」青い葉っぱのシソもあるし、これを合わせれば作れるんじゃないか。念のためしば漬けの作り方をネットで調べてみると、白ごはんドットコムには正統な赤シソを使う方法と、青いシソに梅干しを漬けたときに出る赤梅酢を加えて作る方法が載っていた。なるほどね、赤梅酢は、梅を漬けるときに赤シソを入れてできるものだしね。今回は甘くない塩入りシソジュースと青いシソの葉で作ってみよう。
作って見ると、キュウリとナスは水分が多いというのを実感する。漬けるとすぐに水が上がって来るからだ。1日置いて、出た水気を捨て、軽く絞ってから甘くないシソジュースとみりんを加える。そして、また重しをして2~3日漬ける・・できました!
「・・うまい」。色はほのかなピンク色だが、味はまさにしば漬。あっさりとしていて、いうならば、しば漬の浅漬けかもしれないが、野菜のおいしさが堪能できる。赤しその風味にショウガの辛みとミョウガの香りがアクセント、カリカリとしたキュウリとナスの歯ごたえ、ほのかな甘みとさわやかな酸っぱ味が絶妙である。おいしくできたので、急にしば漬に対する興味がわいてきた。
愛用している60年前に出版された料理本「つけもの」(婦人画報社刊 酒井佐和子著)をひもとくと、京都の変わった漬物、と書いてある。しば漬は京都の漬物だったのだ。佐和子先生は、しば漬にはあまり愛着がないようで、古漬けや塩漬けの野菜に赤シソの塩漬けを刻んで混ぜろ、とそっけなくいう。さらに梅干し漬の赤シソを取り出して絞って刻んでまぜてもいいと。むむ?
京都のしば漬の老舗のHPには、しば漬は平清盛の娘の建礼門院徳子が京都大原の寂光院に暮らした時にこの鄙の里の赤シソで漬けた漬物を気に入り、紫色の葉(赤シソ)で作ることから、紫葉(しば)漬と名付けたという伝承が紹介されている。寂光院のある京都大原には美味しいちりめん赤シソが古くから栽培されていて、その赤シソがしば漬を生んだのである、と。
「聞き書き京都の食事」(農文協刊)は、明治から昭和初期の地域の食文化が、じっさいに暮らして料理を作っていた古老からの聞き取りからまとめられた本である。そこには京都の北東の上賀茂、大原地区が古くからの農業地域で、京の町の食を支えていたことが書かれていた。そこの農家で、出盛りにたくさん余ったナス、キュウリやミョウガを赤シソで漬けこんだのがしば漬である。じっくりとひと月ほど乳酸発酵させて酸味を出す、と。なるほど、しば漬は、山盛り取れた夏野菜の売れ残ったものを活かすためにうまく考えられた漬け物のようである。
「つけもの」の佐和子先生のしば漬の記述は、どうも古くなった漬物の再利用のように読める。梅干し漬に入れたもみしそを再利用しても作れるし、しば漬は、京都の始末料理的な気配がぷんぷんする。あまりがちな梅干し漬のもみしそをたくさん消費できるからね。
梅漬けを赤く染め、しその香りを移すという役目を終えたもみしそは、そのまま食べてもあまりおいしくはないので、うちではいつも余ってしまう。残ったもみしそを乾燥させてゆかりを作ったりはするが、そんなに消費できない。大きな声では言えないが捨てていたこともある。最近はゆかりが大好きな友人にもみしそを軽く乾燥させてから(ゆかりに仕上げるのは大変なので)、差し上げているのだが。
しぶちん・・いや、始末が大好きな京都人が、残ったもみしそをほかすとは到底思えない。季節の余りものを上手に生かす、工夫から生まれた京都の漬物、しば漬。もったいないから始まったかもしれないしば漬。それがこんなにおいしいのだから、何も言うことはありませ~ん。よし、次は梅干し漬けのもみしそで漬けてみようっと。
〈梅酢ともみしそで作る簡単しば漬〉
1 ナス、キュウリ合わせて500gぐらい。ミョウガ4~5個ぐらい。ショウガ50gぐらい
青しその葉があれば細かく刻んで塩で揉んで汁を捨て(アクを出して)から少し加えると香りがいい。本漬けの時、カボスの果汁を加えてもさわやか。
2 ナスは半分に切って縦に5ミリぐらいの厚さで切る、キュウリは1センチ弱ぐらいの輪切りにする。ミョウガは4~6つ割りまたは細切り、ショウガは薄くスライスし細切りにする。10gの塩で揉んで重しをして下漬する。
3 1日置くと水が上がって来るので、水気を絞って、野菜の1割ぐらいの量のもみしそを刻んで加え、赤梅酢とみりんを各大匙2加える。再び重しをして2~3日常温で漬けて乳酸発酵させれば出来上がり。
4 重しをはずして冷蔵庫で保存する。刻んで食べてもおいしい。
*下漬の水を捨てて本漬けするのがおいしく作るポイント。こんなにと思うほど水分が出るが、えぐみもあるので捨てます。もみしそは、梅漬けに使った後のものでなくても、市販の塩で揉んである袋入りのものがあればそれでも。塩分が多いので入れ過ぎ注意。