アジアのごはん(59)波照間島のトゥナナマシ

森下ヒバリ

「あ〜、いい感じのアジア食堂だねえ、何にしようかな〜」メニューを眺めると、ラフテー定食、島豆腐チャンプル定食、島の干物定食、島野菜のカレー、そして一品ものがいくつか。よし、きのう売り切れで頼みそこねた島豆腐チャンプル定食を頼もう。

この店の島豆腐チャンプルには、豆腐のほかにキャベツ・ピーマン・もやし・にんじん・青パパイヤがたっぷり入っている。定食には島かぼちゃの千切りサラダ、にんじんしりしり、白菜浅漬け、四角豆のサラダが少しずつと、アオサのみそ汁とごはんが付く。野菜たっぷりですんごい好みの味なんですけど。赤米を混ぜて炊いたごはんもおいしい〜。

ここは波照間島の「あやふふぁみ 島のもの食堂」である。この食堂、何を食べてもおいしいのさ〜。オリオン生ビールを飲みながら、島豆腐チャンプルに夢中になっていると、「道に迷った〜」と言いながら今回一緒に旅している友達夫婦もやって来た。

食べたことのない一品料理をいろいろ頼んでみることにする。お店は昼しかやってないのだけれど、ビールも泡盛もあるので、すっかり宴会モード。「トゥナナマシ? これ、なんかふしぎ‥」メニューの説明によるとトゥナナマシとは、自家栽培のトゥナンパ(アキノノゲシ)を流水でもみ、サバの味噌煮と酢で和えたものだという。えっ、サバの味噌煮で和える? 何だそれは。

波照間の家庭料理ということなので、さっそく頼んでみる。アキノノゲシらしい葉っぱを千切りにしたものとサバの味噌煮を崩したものが酢で和えて出てきた。一口食べてみると、「ふーむ、経験したことのない味‥でもイケル」。ちょいちょいつまんで、ビールのお供にぴったり。

それにしても、野草をサバの味噌煮と酢で和える‥とは考えたこともなかった。サバの味噌煮を作ったら、すべて食べつくしてしまうしなあ。もしかしたら、台風や強風で航路が欠航することの多いこの島で、保存のきくサバ缶を使った工夫料理なのかも。庭に生えているアキノノゲシを摘んできて、あくが強いので流水にさらしてもみ、サバ缶と和えたのだろうか。それとも、ちゃんとこのためにサバ味噌煮を作って、トゥナナマシを作るのだろうか。まあ、ヒバリが波照間の住民だったら、もちろんサバ缶使いだな。

そう思って、京都に戻りしばらくして近所のコンビニでサバの味噌煮缶詰を見つけたので、トゥナナマシもどきに挑戦してみた。アキノノゲシのかわりに、ぴりっと苦みのあるワサビ菜を使ってみた。作っては見たが、おいしくできなかった。ワサビ菜は、あまり味が近くなかったし、何といってもニッ〇イのサバ味噌煮がまずい。これでは何かあった時のサバイバル料理にもならないぞ。もっとおいしいサバ味噌煮缶詰があったら、こんどはアキノノゲシを採取してきて、作ってみたいものだ。いや、あの、サバの味噌煮をちゃんと作ってもいいんですけどね。

アキノノゲシは、調べてみたら、二センチ位の黄色いタンポポに似た花をつけ、葉っぱがアザミのようにギザギザして尖っている植物である。なんだ、いつもアパートのまえの花壇に生えている、あの草ではないか。キク科のアキノノゲシは波照間島に限らず、ノゲシとともに昔から食べられてきた野草だ。苦みがあるが、やわらかい葉を採取し、茹でたりしてアクを取り、炒めもの、和え物、てんぷらにして食べる。稲作と同時に日本列島に伝わったと言われるほど古い起源の野の菜なのであった。葉っぱをちぎると白い乳液が出るので乳草とも呼ばれ、ウサギの大好物でもある。ちなみにレタスもキク科アキノノゲシ属で、近縁種である。それならさくさくしたロメインレタスなどがサバの味噌煮と合うかもしれない。

沖縄にやって来たのはかれこれ十年ぶりだ。今回は石垣島、西表島、波照間島と八重山地方だけを廻った。十年前との一番の違いは、なんといっても食事(外食事情)が格段においしくなっていること。以前何度か来た時には、「暖かくて、のんびりしていいんだけど、ごはんがな‥」と何度も思ったものだ。内地からの旅行者、移住者、情報の流入で外食が洗練されてきたのだろう。うれしいけど、ちょっとさびしい気もするような。

波照間から石垣に戻って、港の近くで八重山そばを食べたときに、昔ながらの味に出会った。「あ、このもったりした味‥」「だいたいこいう味の店ばっかりだったな」とちょっと懐かしい。店のおじいとおばあの感じはとてもよかった。でも、すんません、味の素てんこ盛りでまずかったです。

石垣の公設市場で青パパイヤを買い、京都に帰ってさっそく豆腐チャンプルを作ってみた。豆腐は堅豆腐という、水分の少ない豆腐があるのでそれを使う。そういう豆腐が手に入らない場合は、固めの木綿をしっかり水切りするか、厚揚げを使って下さい。青パパイヤは皮を剥き、しりしり器ですって千切りにする。にんじんもしりしり器で千切り。ピーマン細切りともやしも加えて、ごま油で豆腐と炒める。味付けは塩とコショウ。ピーナツがあれば潰して加えるとコクが出る。タイの生トウガラシの荒潰しを少々入れるとさらにおいしい。ほんの少〜し隠し味にナムプラー。味の基本はあくまで塩味です。

しりしり器は、沖縄地方の台所の必需品である。「しりしり」は、「すりすり」の意で、すりおろし器のこと。木の枠にはめ込まれた金属にあいている穴は斜めに向かっている。しりしり器を斜めに立てて、にんじんやパパイヤを当ててすりおろしていくと、千切りになって出てくる。千切りと言うにはちょっと太い。少しぎざぎざした千切りは火の通りも味の馴染みもよく、一度使うと、もう手放せなくなってしまった。にんじんをしりしりして、さっと炒める、生のままサラダにする、なますにするなど、にんじんの消費量がぐっと増えた。

ちなみに、沖縄で売っている、台湾製の金属部分が銅のものは、ちょっと千切りにぎざぎざ感が少ない。わたしが使っているのは、小柳産業の歯の部分がステンレススチール製のもので、かなりぎざぎざ千切りができる。こちらのほうが、切れ味は少し劣るが、味の染みが断然いい。

青パパイヤの残りで、タイの和え物ソムタムも作ってみた。小柳産業製は、千切りがけっこう柔らかめなので、搗いてなじませる工程は省いて、調味料と和えるだけにする。青パパイヤの千切り山盛り。プチトマト数個とインゲンは軽く潰す。ピーナツの荒潰し、調味料はナムプラー、柑橘のしぼり汁、さとう、トウガラシ、ニンニク、そして最後に塩辛の液体部分を小さじ半分入れれば、タイの味。

豆腐チャンプルとソムタムをつまみながら、泡盛を飲む。泡盛は石垣島や宮古島の宴会風に、水でかなり薄めてゴクゴク飲む。酔いが回ると波照間島や石垣島で眺めた青い青い海と、星降る夜空がよみがえってきた。明るすぎるくらいの満天の星たち。おおらかに流れる幾つもの星。ああ、あの南の島々はなんとうつくしい場所なのだろう。

そういえば、昔「美しい国へ」なんてスローガンを掲げた総理がいたなあ。改憲、戦争、秘密保護法、原発事故隠ぺい‥あの人の「美しい国」とは、まったく想像できない、とんでもない「美しさ」だ。美しいなんて言葉をあの人に使ってほしくない。嘘とごまかしと策略で出来ている政治が、ただ目先の欲のためにだけ動いていくこの国の有り様。闇はあまりに深く、波照間島のような星空は望むこともできないのか。