アジアのごはん(62)はとむぎドリンク

森下ヒバリ

マレーシアのペナン島のジョージタウンは、古くてシックでぼろい、いや趣のある建物が連なる大好きな町だ。この建物群は一見洋風にも見えるので、以前は植民地時代に白人が建てたと思い込んでいたが、じつはマレーシアに15世紀ぐらいから移住してきていた華僑が洋風と中国風をミックスさせて作り上げた様式だった。今残っている建物は古くても19世紀後半、20世紀初頭のものが多い。京都の町屋のように間口が狭く、奥が深い。そして長屋のようにつながっている。町屋と違うのは、煉瓦と漆喰とコンクリートとタイルで出来ていること、軒をつなげて回廊としてあって、人は日差しと車を避けてそこを歩くことができることなどである。

ジョージタウンは家賃統制によって、借家から店子が出て行かず、古い建物がそっくり残り、町ごと世界遺産になっている。それでも、散歩していると、放置されて崩れかけた家や、窓ガラスの割れた空き家もけっこう見る。古い建物をカフェやレストラン、そしてヘリテージホテルに改装するのが流行っている。

放置されて崩れるよりはいいだろうが、こじゃれたカフェより、昔ながらの姿で営業を続ける食堂やレストラン、そしてお茶屋のコピティアムの風情がなんとも捨てがたい。マレーシアのコピティアムは、華僑がやっている飲み物を出す店なのだが、たいがい店の中や外側に屋台がいくつか店開きしていて、そこの店のビーフン炒めなどの料理を注文して食べることができる。飲み物を出す店が屋台に場所を貸しているので、店で食べるときには必ず飲み物を注文することになっている。

朝のお茶をどこのコピティアムで飲もうか。キンバリーストリートにある宿を出て、連れとふらふらさまよう。朝から食堂をやっているところはちょっとあわただしい。じいさんたちがまったりとコピ(コーヒー)を飲んでいる店があり、そこに座った。飲み物の注文を取りに来る。連れはコピを頼んだ。「え〜とね、わたしはバリー」。覚えたての単語で注文してみる。

昨日入ったコピティアムで、隣のテーブルの女子たちが雲呑麺を食べつつ、白い飲み物を飲んでいるのを見た。ジョッキグラスに氷と一緒に入っているその液体は白いが、真っ白ではなく、少し透明感がある。何だろう? カルピスじゃないし‥豆乳うすめ液でもないだろうし。

いつもはテ・オ・コソンと呼ぶブラックティーを飲んでいたが、こちらの紅茶は香りもなくかなり渋い。暑いので水代わりに何倍も飲んでいるとちょっときついので、その白い飲み物を試してみたくなって、指さし注文してみた。飲み物係のおじさんは「どれだ」「これ、これ」「ああ、バリーだな。アイス?」どんな味なのか分からないが、店内の半分の人が飲んでいたので、マレーシアではポピュラーな飲み物なのだろう。

運ばれてきた白い水は、思ったより甘くなく、好ましい味だった。なにか懐かしい感じもする味だ。穀物系の煮汁のような、沖縄の玄米ドリンクを薄めたような‥。何から作っているんだろう?
「味があんまりないんだけど、体にすーっと入って来るなあ、このバリー」「どれどれ」味見してみた連れも、「うん、体にいいって感じがする」と半分ぐらい飲んでしまった。あ、返してよ。なんともあいまいな、ゆるい味だが、気に入ってしまった。

今日のコピティアムで、無事「バリー」が通じて、運ばれてきた。昨日の店とは少しテイストが違うが、これもいい感じ。いい飲み物をみつけた。

ちなみにここのコピティアムの屋台のお粥もなかなかのものだった。いくつか出ている屋台のひとつで、おじさんがちりめんじゃこを中華鍋いっぱい炒めていた。ごま油とじゃこのいい匂いがして来たので、そのじゃこを乗せる柴魚花生粥、というのを注文。とろとろに煮込んだお粥に、かりかりのじゃこ、油条(揚げパン)、ショウガの千切り、ネギがのっている。一口食べて「おいしい」と声が出た。かき回すと煮たピーナッツがたくさん出てくる。ちいさな牡蠣もひとつ出てきた。

じゃことピーナッツは相性がいい。マレー料理のおかずかけごはん屋さんには、必ずじゃことピーナッツを炒めて味付けしたものがある。これがおいしくて、マレー料理を見直すきっかけになった。お粥にも合うんだな、この組み合わせ。

クアラルンプール在住の友人にこの白い飲み物のことを尋ねてみた。たぶん、知らなくて中華系スタッフに聞いたのだと思うが、「バリーは意米水といってはとむぎで作るらしい。英語ではBarleyWater」あとは自分で調べろという。はいはい、ありがとうございます。はとむぎ、だったのか。あの何だか懐かしい味は。ちなみにBarleyとは本当は大麦のことである。はとむぎはPearibarleyだ。長いので略してしまったのか。とにかくバリーはもうマレーシアでははとむぎ煮汁ドリンクのことなのだ。

はとむぎは、日本でも昔からいぼ取り、美肌の妙薬として使われてきた。ちょっと煮えにくいのであまり食べられてはいないが、漢方薬として煮出して飲んだり、ハトムギ茶として飲んだりする。いぼ取りだけでなく、肌のトラブル全般、抗腫瘍作用、アトピー、気管支炎、利尿作用などがあるという。

バリーの作り方は簡単で、30分以上水に浸しておいたはとむぎをゆっくり煮る。半分ぐらいに煮詰めたら、好みの甘さにして飲めばいい。冷やしてもおいしい、煮たはとむぎの実も食べていい。はとむぎの糯性のでんぷんが溶け出した煮汁は白く濁って、とろんとしている。甘くせず、レモンを入れる飲み方もあるようだ。

店で出すバリーにははとむぎ粉を溶いて、砂糖をどっさり入れただけのものもあるようだが、日本に戻ったらはとむぎをコトコト煮て作ってみよう。とろんとした、あいまいな味、でも何かおいしい「バリー」を飲んだなら、ヒマそうなおじさんたちが座ってコピをすすっている、あのコピティアムに自分も座っている気分になれるかもしれない。そして2月の終わりのジョージタウンの暑い暑い日差しとかすかな風も感じられるだろうか。バリーのようにまったりとした、でも何だか懐かしい南の国の風が。

追記 先々月に書いた「モリンガ」について。バンコクでOリングテストの達人マーシャにチェックしてもらったら、これが一番いいと思っていたノニインターナショナルのセブ島産モリンガよりも、沖縄の大城さんのモリンガが断然体に良かった。その場にいた人全員にとてもいい結果が出たので、ぜひ大城さんのモリンガをどうぞ。最初はちょっともったりして飲みにくいが、3回ぐらい飲んでいたらおいしく感じられてくる。これをすすめた友人からは「血圧が下がった」と報告があった。大城さんのモリンガは、モリンガ沖縄というサイトでお値打ちに入手可。なぜかホームページのアドレスがコピーできないので「格安通販 沖縄産モリンガ モリンガ沖縄」で検索してください。無農薬モリンガ100グラム、プレミアムで1600円です。タイ産のモリンガもとてもいい。こちらはカプセル入りでお手軽。ただし、タイに来ないと入手できません。ちなみに、藍藻の「スピルリナ」もモリンガ同様、毒出し効果が大きく、ミネラル豊富。「モリンガ」って何よ、と抵抗のある人は放射能排出、免疫力向上にスピルリナもおすすめです。両方飲む必要はありません。