五年ぶりに海へ

仲宗根浩

近所の居酒屋に行くとスクの刺身のメニューがあるので頼んだ。スクはアイコの稚魚、それも孵化してすぐ餌を食べる前に網で獲られる。餌を食べた後だと臭みが出るため食べられないと。それを塩漬けにし瓶に詰められ豆腐の上にのっけられたり、から揚げにされたりする。スク漁の時期、旧暦六月一日の直後だったのでから揚げと刺身があったが迷わず初めての刺身を食べた。自らが初めて餌を食べようとする前に人に食べられてしまうのがスクの運命。おいしくいただきました。

こちらは連日最高気温三十三度のままの毎日。夜、仕事先から車で帰るときはクーラーをつけずにすむくらいに、暑さにも少しづつ慣れてきた、というより鈍感になったのか。通勤時に車中で三年以上繰り返し流していた「ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ」も今ではザ・バンドのライヴ盤「ロック・オブ・エイジス」に変わった。これも何度聴いても全然飽きない音楽。

子供たちは夏休みに入る。夏休みに入る前、小四女子が新しく浮き輪を買ってもらっている。今年は海に行きたいと、本人の希望。わたしはその子の問うた。「あなたは車に乗るとすぐ酔うのに大丈夫か?」と。いくら海が近いとはいえ一番近いビーチでも車で十五分から二十分はかかる。その程度でも酔うのに本当に大丈夫かどうか確かめたら本人は海に行くのに車に乗らなくていけないことを「忘れてた。」と返事。「我慢する。」というので海に行く日、満潮の時間を調べ満潮になる三十分前くらいにビーチに着くように家を出る。大潮ではないので急に潮が引くこともない。平日の昼過ぎ、駐車場も混んでいない。近場といえ人工ビーチ、透明度を期待してはいけない。それでも海に目をやると正面には慶良間諸島がきれいに見える。左側は宜野湾のコンベンションセンターの建物とその先には発電所。右側からは嘉手納飛行場から訓練のためF15が頻繁に離陸し輸送用ヘリがすぐ近くを低空で旋廻する中、五年振りくらいに海に入る。まわりを見ると、地元の人間は日差しの怖さを知っているので、海に入るときは水着の上から肌を出さないようにTシャツなど何かを上から着て入っている。水着のまま肌を露出している人は観光客。こちらも日差し武装をしていたので腕だけが焼け赤くなった。帰るときはシャワーとか面倒なので、足についた砂を洗い流し、適当に身体を拭き、車に乗ってもシートを濡らさないよう、バスタオルをで養生してそのまま帰り、家でシャワー。これだと着替えも要らないので荷物も少なくて済む。

八月は平日午前中に開放している小学校のプールにいっしょに行って泳ぎも教えてくれと頼まれている。聞けばビート版を使いバタ足をしているとまっすぐ進まないという。うちの奥さんが言うには左右のキックのバランスが悪いのではないか、と。いやいやそれは違うでしょ。水の中でちゃんと目を見開いていればヒトというのは歩いているときと同じようにちゃんとキックを修正してラインに沿っていくはず。おそらくびびってゴーグルをしているにも関わらず目を開けてプールのラインを見ていないからだと。海でも波を怖がってすぐに入ることができないほどのびびりだから。