閏月(ユンヂチ)に

仲宗根浩

電話の着信音が鳴る。事務所の内線電話か? はたまた外線か? そのうち音が切れる。
「仲宗根さんの携帯じゃないですか?」
携帯を取り出す。着信の記録がある。初着信は電話を取ることなく終わった。あまりにも普通の着信音に設定していたのでわからない。その上、ケースに入った携帯電話は音がやわらかくすぐ近くで鳴っているような感じがしない。携帯には着信時、電話機自体を振動させる機能があったことに気づき、その設定をする。携帯初心者にとってはこれを持ち歩き続けることは戸惑いばかり。購入した機種は、自分とは真逆のスマートなビジネスマンが持つモデル。電話機自体が華奢ですぐこわれるような気がしたので近所の革製品を作っているところで生意気にも携帯ケースをオーダーしたら五千円。購入後はマニュアルを読みまくり、付箋を貼り、学習する。料金のコースはどうせかけることは少ないだろうから二、三ヶ月は様子見て基本料金が一番安いものにする。しかし、基本料金が安いと通話料が高く、無料通話分もそれなりの少ない額、ちょと携帯サイトみればパケットで結構高くつく、複雑な料金体系。仕事場では携帯を持ちながら、内線用のPHSも持たされる。家にいて、二、三十分ちょっと外に出るときは携帯を持つのを忘れる。気がついてもポケットに一つ新たにものを入れたり、首からぶら下げたりするのもなんか面倒なので、ドライブモードというのを見つけた。これであれば着信の履歴は残り、ちょっと外に出るときは持たずにすむ。私用では使う気がないので携帯を持っていることを知っている知人に番号を教えてと頼まれたが、今のところは番号は教える気はない、と断る。現在、仕事上で携帯電話で話したのは四回、メールのやり取り二回。こんな使用頻度で本当に必要なのか。携帯電話を持っていてあたり前のうえで話しが進められる世の中、持っていなくちゃいけないものなのか。

マーティン・スコセッシが監督したストーンズのライヴ・ドキュメント映画「シャイン・ア・ライト」とデジタル・リマスター版、ハル・アシュビーが監督の「レッツ・スペンド・ナイト・トゥゲザー」のDVDが届く。「シャイン・ア・ライト」から見る。ロン・ウッドのスライド・ギター、う〜ん相変わらず下手だ。今、バンド・サウンドを支えているのはピアノとキーボードのチャック・リーヴェル、ベースのダリル・ジョーンズというのがよくわかった。スコセッシは「ラスト・ワルツ」でできなかった一つのバンドのライヴ・ドキュメントの欲求不満をこの映画で解消したんじゃない?という感じだった。スコセッシの小細工が気になる映画。ハル・アシュビーの作品は二十数年前に前売り券を買い、映画館で見て以来。あの頃は映画館は今みたいに入れ換え制ではなく、外に出なきゃ、一枚の券で朝から夜まで同じ映画を何回も見ることができた。はやい場面から出てくる、ピ
アノの故イアン・スチュアートの姿に感動。こちらは映画自体がロックン・ロールだ。最近は映画館で映画を見ることはない。ストーンズだって本当は大画面で見たいが、あの5.1chサラウンドというのがどうも馴染めない。2chステレオで十分だろうよ。普段、ラジオのFMはモノラルで聴いている。チャンネル多いからといっていい音とは限らない。うるさいだけのこともある。最後に映画館に行ったのは子供と行った仮面ライダー劇場版と実写版「鉄人28号」をはしごしたときだ。

旧の五月が二回ある今年、テレビでは仏壇、霊園、お墓屋さんのCMが多い。閏月のことをユンヂチという。仏壇の交換や移動、お墓を建てるのはユンヂチに、というのが昔から言われている。夜に墓屋さんの前を車で通ったら、展示されている墓がLEDで見事にライトアップされているではないか。暗闇に墓だけが浮き上がっていた。月々、旧暦の行事があるが、ユンヂチには神様も月がわからなくなり、その間に仏壇を買い替えたり、墓を建てたりしてしまえ、というのを何かで見たおぼえがあるので、奥さんにユンヂチのことを聞かれて、そう答えておいた。

ひさしぶりに用事で西海岸のリゾードホテルが並ぶ国道58号線に出たとき、夏の海を少しだけ目に入る。