ダム貯水率、もう少しで八十パーセント

仲宗根浩

交換した眼鏡、なかなか慣れない。目玉が顔と違う方向ばかり向いてよそ見ばかりしていると、途端に見えなくなる。縁がない眼鏡、レンズに直接つけられたつるにつながる直接レンズに付けられた部品が視界に入りとても気になる。そういうことも雨がいきなりふりはじめたり、少し晴れたり梅雨らしくなったころにはだんだんと慣れはじめる。文字の読み方のこつもおぼえたきた。

住んでいるアパートの補修工事が三日間。十二年、同じところに住んでいると部屋のあちこちガタがくる。きれいだったフローリーングは湿気のためベランダ側から二枚、その頂に足をのせるとほどよい刺激をくれるくらい、山のように盛り上がり、食卓がある床は高級な絨毯のように柔らかくふかふかになり、畳の部屋の天井はゆるやかに波打ち、数年前シロアリに食われた玄関の壁はもろくも崩れる。古い建物だから湿気は多い。数年前、五月の連休に四、五日留守にしたあともどったら、家中カビだらけ。革製品はこまめに手入れ、なるべく湿気のない保管場所を選ばないとすぐカビに浸食。それ以来、五月から九月までは一家総出で家をあけることはしない。
補修工事中は本棚から本を全部、ベランダに敷いたブルーシートの上にだし、本棚を動かす。奥に寝ていたもう読まない本は片付けるときには本棚に戻さず、古本屋行き。壁の板は剥がされ、むき出しのブロックをさらけだし、九センチ幅の床板は一センチカットされ、それぞれシロアリよけの薬をまかれ新しい板、幅を短くされた板がはめられる。工事が終わると再び激しい雨が降り始めたかとおもうと、お先に梅雨をあけさせていただきます、となったとたん日差しが肌に突き刺さる毎日。クーラーも一台しか掃除が済んでないため去年の防音工事で新しく取り付けられたロスナイと扇風機ですこしだけ涼しくする。

眼鏡も慣れはじめた頃、今度は仕事で携帯電話を持つはめに。近所の携帯電話ショップでカタログを仕入れ、料金プラン、機種を見ていると頭の中は意味のわからない用語でいっぱいになる。以前からなにか怪しい、と思っていた携帯電話への疑念がますます深まるばかり。これならパソコンのほうがまだわかりやすい。購入してもプライベートでは使うまい、番号は親兄弟にも教えまい、と決意だけはしてみて、ここぞとばかり夏を主張する入道雲をうらめしく眺めながら電話屋さんへと行く準備をする。