Tomorrow is another day.

仲宗根浩

ある日、家での音楽の聴き方を変えよう、と考えパソコンに取り込んだCDの音源を消すことにした。20GB以上あった音源ファイルは盤があるものを削除し2GBに減る。これからは盤を取り出し、CDプレイヤーに入れる、という作業を再びすることになる。家の中での音楽の垂れ流しはこれでなくなる。

ある日、夕ご飯の餃子、餡を皮に包むよう命じられる。冷蔵庫からかわを取り出す。わんたんのかわと書かれている。すこしいやな予感。袋を開け取り出すとほら〜、形が正方形じゃないか〜。しょうがないので餡をのせ対角線で折、包む。出来上がった三角形はどうみても生八つ橋。

ある日、水谷隆子が亡くなった、というメールが来た。メールの日付は昨日だった。不幸があるとメールのやり取りが多くなる。りゅうちゃんと初めて会ったのは澤井先生のレッスン場だった。りゅうちゃんは見学に来ていた。こちらはレッスンを受ける側だった。レッスンは時間が押して一番最後のわたしが終わる頃は終電も無くなり、最後まで見学していたりゅうちゃんは入門前にしてレッスン場に泊めさせられ、その日は飲み会へと突入した。真面目なりゅうちゃんは内弟子となり、内弟子卒業後はアルバイトをしながら演奏活動を続ける。一度、りゅうちゃんから代役を頼まれた。彼女が参加していた、コントラバスと複数の箏で即興をするグループ。場所は今はなくなった法政大学の学生会館ホールだった。りゅうちゃんの代役などつとまるはずがなく、下合わせからなんかおさまりきれてない、自分の居所を見つけられないまま本番まで終わったしまった。そのあと、こっちはいつの間にか箏の世界からコースアウトし東京を離れる。東京から離れる数日前、その頃住んでいたアパートまで会いに来てくれた。うちの奥さんとはNHK邦楽技能者育成会で同期だったし、子供の顔が見たかったのかもしれない。それが会って話をした最後になった。それ以後はEメールだけのやり取りになった。彼女が東京で最初のリサイタルをするとき、舞台スタッフのこと、音響のことなどの相談を受けた。その時が一番やりとりしたかもしれない。そのうち文化庁の在外派遣研修員として彼女は渡米した。新しい音楽をつくる楽しみに満ちたメールが来た。こちらの内容は仕事の愚痴とおふざけと馬鹿話だけ。東京のいろんな人の近況報告も全部りゅうちゃん経由のメールで知った。派遣研修後もアメリカで暮らし、結婚したこと、癌が見つかって手術する、という報告メールが来た。治療の副作用で丸坊主になったこと、トルコブルーのカツラを付けた写真も送ってきた。こちらからは禿げ仲間が増えてうれしい、と返信した。詳しく書かれた治療の様子、副作用のこと、苦しさなんて当人でないとわからない。いつも通りふざけるしかできなかった。季節ごと、新年を迎えるごとに連絡は取り合っていたがだんだんとその数は減っていき二年半ほど途絶えた。でも活動はホームページやブログを見て知っていた。その後、沖縄にいるりゅうちゃんの知り合いの近況を伝えたり、育成会の同期会に関しての連絡を頼まれたりと、年に数回のやりとりが再開した。去年、久しぶりに東京を訪れたときは入れ違いでりゅうちゃんは、IIIZ+という自らのグループの公演のため東京に来た。今年四月にはここからは東京よりも近い台湾まで来ていたので沖縄経由すればよかったのに、と書くと「台湾ー沖縄経由、思いもしなかったよ。次回はそうしよう。」と返事がきた。りゅうちゃんは上手に癌と付き合って世界中を飛び回りつづけているからそのうち会えるだろう、思っていた。だけどTomorrow is another day.と、タイトルがついてブログは十月十日を最後に更新されないまま、二ヶ月後にりゅうちゃんはみんなにバイバイしていった。澤井先生宅にての、りゅうちゃんを偲ぶ会の案内メールが来たが欠席の返事を出す。

ある日、十九年使った掃除機がついにこわれた。これで結婚以来使っていた家電製品はすべて代替わりとなった。奥さんは掃除機の下見に行く。店の人に明日のセールから六万四千八百円の製品ですが今日までであれば四万七千円でいいです、と言われ内金を払いもどってきた。価格ドットコムで値段を調べる。損はしてない。最近の掃除機、収納の形態が四種類もある。「トランスフォーマー」みたいだ、と子供と遊ぶ。

ある日、十年前に購入したパソコンをメーカーに回収してもらう手続きをする。リサイクルマークが無い頃のものなので有料になる。支払いを済ませしばらくすると、発送のため伝票が送られてきたので箱に詰め郵便局へ持っていく。Apple Power Book 2400/240。いいマシンだった。80MBのメモリー、2GBのハードディスク。今ではビデオカードには80MBでは足りず、2GBはメモリーの標準。

ある日、新聞についてくる年末年始のテレビ番組表を見ながら演芸番組をチェックする。生の落語も七、八年前に立川談志独演会を近くのホールで見て以来、ご無沙汰している。この番組表を実家から貰っているのだが、これを見ていると日曜日にある「みんなのケイバ」が「みんなのゲイバー」に見えていつもドキっとする。最後のゲイバーは高校の同窓会の二次会、場所は新宿。だれが手配したか知らないが、店に入ると貸し切り状態。男子校だったので店の中は男だけだった。

おおむねいつも通りのひと月は過ぎる。