カナカナ

時里二郎

目が覚めると
カナカナの すずふるような声が
しろじろと聞こえてくる
三つ、四つ、それ以上ではない
声は同じ調子で
ゆめのほうから追いかけてきたようにも
うつつのほうからやってきたようにも・・・

伯母はにべもなくさえぎって言う
―名井島にはセミはいない

ねつのない小さなほのおのような声の穂先がそれぞれにあって
そこにしがみついているものがいる

―それが「セミ」だと言うのなら そうかもしれない 

―聞こえないはずのものが聞こえるのは
あなたが病んでいるから

声の穂先のさきにいるセミ

―「ゆめ」を見るように《改良》されたアンドロイドなら
「セミ」は持っているものよ
あなたの場合は 生まれた時から
「カナカナのすずふるような声」が
「ゆめ」と「うつつ」をゆききしているのはたしかなこと

カナカナの声が聞こえるのがどうしていけないの?

―聞こえる必要がないから と伯母は微笑んでこたえたあと

―その聞こえないはずの信号音をカナカナの「すずふるような声」だと知覚したときにあなたが感覚したことをもう一度いってごらんなさい

「ネツノナイ チイサナ ホノオ ノ ヨウ ナ コエ ノ ホ サ キ ガ・・・」

―アンドロイドは 病むと コトバのあとを追いかける

ヒトのように