すずみ

時里二郎

鳥の声が落ちてきて
ねえさんの人形の目があいた

すずみ というのだと
にいさんの人形が
教えてくれた

島の井の近くにいて 
水のしずくを飛ばしているやつだよ

いつもそこへ遊びに行って
水のしずくはわたしを濡らすのに
その鳥は見たことがない

にいさんの人形の目は
ずっとあいたままだから
わたしに見えないものも みえる
空の色より少し深い色をして

すずみ と
ねえさんの声がした

ねえさんの人形は
まだ話せないので
代わりにねえさんが
言ってやる

二階の窓から
少し 海が見える
島の井のある
耳ヶ崎の海

ねえさんの人形は
そこに流れ着いたばかり
ひっそり ひとりで
誰としれない人の記憶の端(はな)から
すずみが落とした
水のしずくのように

  〜名井島の雛歌から