犬狼詩集

管啓次郎

  47

おれの新年のトランプでは
ハートは緑色をしている
葉緑素の心がいつも
陽光を礼拝する
スペードはterra roxa(赤土)の色だ
大地という母体を耕して
さまざまな穀物や根菜を生じさせる
耕作の不思議
ダイアモンドは圧倒的な透明度で
そのかたちすらわからない
月光が降り注ぐ夜には
道を横切る黒猫の輪郭をもつ
そしてクラブはオレンジから黄色へのグラデーション
光がもつすべての希望を体現し
モンゴリアの夕陽のように赤く見えることもある
草原の自由な燃焼、草原に散らばる幸運

  48

屈強な石工の体をもってかつて
出征した兵士だった父が死んだとき
その頑丈な大腿骨をもって
骨笛を作ることにした
法医学者の友人に頼んで
きれいに切断してもらった脚を
漆黒の闇にまぎれて砂浜に埋め
三年ほど待った
それから掘り出してみると驚いたことに
骨がマンモスの牙のように成長しているのだ
ぼくは骨を丁寧に洗い、中空構造をうまく利用して
巨大なディジェリドゥーを作った
それからずっと骨は鳴り続けている
循環する風が嵐のように叫んでいる
よろこびの音楽だ、快活な楽曲だ
生はいつも振動としてよみがえる