島便り(2)

平野公子

5月もほぼ泊まり人で埋まってました。

民宿化してしまった島の我が家は元醤油屋さんの一族の本家であったところ。家のとなりに土蔵も100坪ほどの醤油蔵(今は納屋になっている)もあり、家自体そうとう古い。おそらく100年は経っているだろうが、長い間に土間は台所に井戸まわりは外スペースの通路に作り直され、サッシのついた離れはあとから作られたものだろう。屋根は瓦だが回りは醤油屋独特の色合いの板塀。ガラス戸にはめられているガラスそのものが既に懐かしい年代物である。おそらく昭和30年代に子どもだった人にはこの家の調度や戸の桟にいたるまで見た事のある懐かしさなんだろうと思う。デジャブだね。しかし、ココはシモキタか?なんていう新しい家もあちこち建っているなかで、古民家が残されているのは島でも少なく、あっても放置された侭になっている。たしかに住めるようにするには手入れも気入れも必要なりだから無理ないが、もったないくらいいい古民家がそのまま朽ちていくのかと思うとつらい。

ある夜、天井から板塀の外から確かに動物が動き回っている音がした。一週間ほどそのまま様子を見ていたが、前の畑の肥料土の山は穴ぼこだらけになっているし、夕方たき火をしていた甲賀さんの目の前をものすごい早さの生き物が横切った、という。確かになにか来ている! 蛇かな? 蛇には畑で会ったときに庭にいていいよ、と声かけておいた。おそらく違う。イタチかな? 大家さんのおじさんが言うには、あぁこの肥料土の中の虫(カブトムシの幼虫など)喰いにきおってるのはイタチか狸やろ、ということで家の中の動物とは違うようだ。

天井を下からボウでつついてみた。ミャーミャー慌てた鳴き声と動き回る足音。天井からバラバらと落ちて来る土砂。やはりいたか。ごめんごめん誰だかしないけど、赤ん坊生んでるならいてもいいよ。大きくなったらみんなでどこかへ出ていってね。下から声かけた。もしかしたら道で話しかけた、じっとわたしを値踏みしていた野生猫かもしれない。しかし、いったいどこからはいったのだろう。しみじみじっくり家の回りの壁や窓や屋根や、そのつなぎ目を見たら、入れる入れる、家のアチコチが隙間だらけだ。私が動物だったらチョロイ、なんでも盗み出せるよ、この家。東京にいたときからほとんど鍵かけたことない私にとっては理想のすきまだらけの家です。

そんな我が家に島のネイテイブなのに寝袋もってきて泊まった男がいる。自然舎(じねんしゃ)主宰の山本さんです。通称やまちゃん。やまちゃんは島のあちこちで見かける。島のあちこちのイベントに必ずいる。お酒飲むと、イヤ飲まなくとも中心になって柔らかく話し続けている。いでたちが目立つ。背は低いがハンサムである。

この人は島で唯一わたしがからかいがいのある男でどんなに直球変化球でからかっても(半分本気なのは言うまでもない)うまくかえしてくる。実に貴重な男なのです。そして海の男である。東京都の職員として小笠原で勤務、その後故郷の小豆島へ戻り、カャックツアーを本業とした、ということだが、途中は謎だらけである。そこが面白い。
まだ未体験だが海の上をほぼ布一枚に乗り込み海面を滑るカヤックツアーは風波雨のときは休業。これぞ水商売の極みと言えるのではないだろうか。

そこでやまちゃんはつぎなる手をうつことになった。通年商売のできるカフェを作ろうと。民家を買い取り、改造しはじめてほぼ3年経つという。まだできていない。そりやダメだよやまちゃん、いくら島でも準備がながすぎる、そうだ7月の末にライブやろう、若い2人が東京からくるからライブやろう、それまでに開店しよう。そうだ10月「満月バー」もやまちゃんのカフェでやるよ。店の名前決めた? ほら甲賀さんがロゴ描くってよ。言っておきますけど私決めたら必ずやるからね、やまちゃん!

で、自然舎(じねんしゃ)やまちゃんのカフェ「たこのまくら」のロゴ&デザインは甲賀さんもう作っちゃいました。10月の満月バーお楽しみに。