シリアのコロナ事情

さとうまき

なぜシリアは新型コロナウィルス感染者が少ないのだろう。

新型コロナウィルスの感染が広がっている。日本でも4月6日に緊急事態宣言が出され、なかなか外出ができない状況だ。わが国際協力チームBEKOがシリア支援の活動を本格的に開始したところでイベントも中止。窮地に立たされている。

当のシリア国内はどうかというと、今のところコロナの感染者が43人しか出ていない。激しい内戦を続けてきて、病院も破壊され、医者も国外へ逃げてしまった。しかも戦闘はまだ続いている。こんな状況で、感染症が抑えられるのか不思議だ。

そこで、まず考えられるのが、
1)アサド政権はコロナの患者数を隠蔽している?
反体制系サイトのサウト・アースィマは3月28日、シリア軍の兵士40人が新型コロナウィルスに感染し、ダマスカス郊外の国立病院に搬送・隔離されていると伝えた。また、シリア人権監視団は29日、信頼できる複数の医療筋の情報として、新型コロナウィルスへの感染を疑われて隔離されている患者の数が260人以上に達していると発表した。
ただ、このシリア人権監視団も、安田純平氏が解放された際に、「カタールが身代金を払った」と不確かな情報を平気で発表する傾向がある団体なので、当てにならないのだが。イラクもシリア政府を非難している。イラクのカルバラー県のナズィーフ・ハッタービー知事はビデオ声明を出し、「カルバラー県は、11人の新型コロナウィルス感染者を確認している…。そのほとんどがシリアからの帰国者だ」と発表したうえで、「シリア政府と医療当局が正確な情報を与えてくれていない」と非難した。(イラクは、2,003人が感染して死亡者数92人)

2)きちんと検査ができていない。
先に述べたように内戦で医療崩壊してしまっているから検査がきちんとできるとは思えない。つまりちゃんと検査すればもっと感染者は増える。(これは日本と同じか?)

3)人の出入りが少ない。
シリアに行き来する人の数が圧倒的に少ない。日本の外務省は2012年から退避勧告を出し続けていた。

4)結構対策が早かった。
日本が非常事態宣言が出たのが4月6日。シリアは、3月22日に初めて新型コロナウィルス感染者がでると3月25日からロックダウンを宣言。功を奏しているのかもしれない。

分断されたシリア、コロナ対策で一つになれるのか? 今のシリアは、アサド政権が支配する地域と、北東シリア(クルド自治区)、そして北西部のイドリブ県(トルコが支援)に分かれている。イドリブでは今年1月からロシアの支援を受けたシリア政府軍と、トルコの支援を受けた反体制派が激しい戦闘を繰り広げ52万人ほどが国内避難民になっている。3月6日にはロシアとトルコで停戦合意が結ばれた。現在は、落ち着いており、トルコ政府系のサイトでは、18万5000人の民間人が帰還したと発表。アジアプレスの玉本英子さんは、イドリブ在住で市民記者としてアラブメディアに現地の状況を伝えてきたアル・アスマール氏のコメントを掲載している。
「各国で新型コロナ問題に関心が注がれるタイミングを利用して、アサド政権が非道な攻撃をするかもしれません。私たちは、新型コロナに加え、いつ空爆や砲撃の犠牲になるかわからない不安な毎日を送っているのです。この現実も知ってください」

イドリブの人たちの憎しみは強い。イドリブでは、反体制派のホワイトヘルメットが「国民対応チーム」を作り、トルコのガジアンテップ市にあるWHOの監督のもと、さまざまな感染防止にあたっているという。しかし、反体制派でも、イスラーム主義者を掲げるシャーム解放機構(アル・カーエダ系)は、ラマダーン月にモスクでの礼拝をおこなっており、密集を避けよという指導も届かない。トルコも、感染者が12万人に達し、シリア人の患者を受け入れる余裕はないようだ。

アレッポのアハマッドさんは、赤新月社で働いている。かつて日本語を勉強したことがあり、流ちょうに話す。
「難民が家に帰り、協力して家や都市を再建したいです。再び美しくなったシリアの景色を、日本をはじめ外国人観光客と楽しみことができる日が待ち遠しいです。」という。

ある日、赤新月社を頼って、小児がんの患者2人の家族が訪ねてきた。貧しくて病院に通うお金がないという。特にコロナ危機で交通費が値上がりしているというのだ。また、本来は治療費はかからないのに病院に薬がないと、自腹を切らなければいけない。この2人の子どもをとりあえず支援してほしいと持ち掛けられた。

がんの子どもたちは免疫力が弱く、感染症にやられやすい。がんの子どもを治療する病院は限られていて、政府とか反体制派とか言っている場合ではない。みんなで助け合わないと命が危ない。彼らに協力しようとクラウドファンディングを立ち上げた矢先に日本の方が大変なことになり、マスクはないわ、トイレットペーパーまでなくなるわで、ピリピリした空気が流れる中、シリアを支援しようとはなかなか大きな声で言えなかったが、チームの大学生4人組が奮闘してくれている。若い力に背中を押される。
https://readyfor.jp/projects/teambeko-japansyria

僕たちの世代は、本当にコロナのせいで明日食っていけるかわからない。僕も含めてだが、最近仕事を失った連中が多いのだ。コンサートが流れたり、イベントもできず、あとどれくらい生きていけるんだろう、みたいに考えて過ごしている。夫に先立たれ一人暮らしをしている同級生がいて、ちょっと心配になって電話してみた。すると、けらけら笑いだす。どうしたのって聞くと、「コロナで株が動くのよ! ここで儲けなきゃ。私は勝負が大好きなの!」という。なんとポジティブなんだろう。「で、その儲かったお金はどうするの?」「贅沢することで自分は輝けるのよ。信じるものはお金よ。」貧困がつらいというよりも、このギャップがとてもつらくなってきた。

ラマダーン月は、昼間は空腹に耐え、貧しい人のことを考える、そしてコーランを読み、善であろうとする。もしかしたら、コロナは、私たちにとってのラマダーンなのかもしれない。でも経典がないから、変な方向に走っていく人もいる。コロナが去った後は何が残るんだろうなあ。