月の話をする先生

さとうまき

僕は、6か月間、秘密の職業訓練を受けている。残すところ一か月だが、正直甘く見ていた。WEBを自由自在に使いこなせるようになり、、、、というのが極秘の任務である。たとえば、検索で上位表示させるためには、グーグルのサーバーにもっていってもらって、彼らが気に入るようなものでなければならない。

改めて、日常がいわゆるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)つまりはアメリカに完全に支配されていることを知り少し恐ろしくなったりする。せめてもの救いはというと、ジョブスがシリア人だということだろうか。

還暦が近い僕は、正直ついていくのが精いっぱいで、何とか毎月の試験は少しずるをしながら好成績を上げているものの自分がいかにポンコツかというのを思い知らされる。すごいなあと思うのは、講師の先生はさらに僕よりも年上であるのに衰えを知らない。

授業が始まる前に、「今日は何の日」というのを話す先生がいるのだが、宇宙の話が多い。ここにきているのは、明日食えるかどうかわからないという失業者ばかりで、宇宙で何が起ころうが、そんなものはどっちでもいい話だ。先生も生徒が聞いてようが、いまいがお構いなしに熱く語る。

「どうして、先生は、宇宙の話ばかりするんですが?」と生徒がたまらず聞いた。
「宇宙のことを考えていると、この世の中がちっぽけで、どうでもよくなるんですよ。」
言われてみればその通りである。明日の飯のことなど取るに足らない事なのだ。

「10月は、2回満月がある月です。ハロウィンと満月が重なるのは、46年ぶりですから、帰りに必ず見てください。」
といわれても、授業が終わって、同級生と就活の話をしているとコロナ禍の暗い未来しか見えてこない。池袋の町明かりに月のことなどすっかり忘れてしまっていたが、家に着けば、満月が真上に輝いていた。夜も更けてくると周りも暗くなって、月の存在感が際立つ。

不思議な静寂の中で、聞こえる音。それは月の音ではなくて、満月に覚醒された地上の生物や植物たちのざわめきの音楽がハーモニーを奏でている。”月並み”な話だが、GAFAがすごくても、有史以来、人間はとてもちっぽけな存在であり続けるのである。