911イラクとの戦い

さとうまき

911といえば、11年前にワールド・トレードセンターに飛行機が突っ込んだ。その日からすべてが変った。しかし、11年という歳月は長い。風化していくのは仕方ないのか。

日本では、この日。ワールドカップの最終予選があるというので盛り上がっていた。NYのテロの事はすっかり忘れていた人も多いと思う。しかし、日本の相手がイラクとなると話は別だ。

アメリカ大会の予選。1993年、日本は、悲願のワールドカップ出場を目指すために、ドーハでイラクと最終戦を戦っていた。イラクに勝てば、ワールドカップ出場だったが、後半のロスタイムで追いつかれ、初出場を逃してしまう。後々「ドーハの悲劇」と呼ばれるようになったが、この言葉、まるで格言のようで、「最後の最後まで何が起こるかわからない」日本にとっては油断するなということだろうし、イラクにしてみれば、最後まで諦めるなということだろう。

ドーハの悲劇、調べてみるとなかなか奥が深い。このときは、湾岸戦争後で、イラクは国際的にも非常にダーティなイメージがあった。しかも、ワールドカップはアメリカで開催される。「イラクをアメリカに行かせるな!」という流れの中で、同盟国日本が、阻止するという図式はわかりやすい。審判も日本に有利な判定を行なったという。

イラク戦争が始まったとき、当時日本代表だったラモスは、同じ目標のため競ったイラク選手の無事を祈り、「できるだけ早く終わってほしかった。いい戦争なんてない」と、戦争が落ち着くと直ちにバグダッドに駆けつけた。ラモスのこの熱さは好きだ。石巻でも支援物資をもって、避難所に来てたのをチラッと見た。すごい人。当時の選手を集めてチャリティサッカーをやるというアイデアもあったが、結局、翌年2004年の2月、日本政府は1000万円を拠出し、イラク代表チームを日本に呼んで現役の日本代表チームとのゲームを組んだ。

僕はその時、なんとなく、サッカーに税金を使うのかと懐疑的だったが、某新聞の電話インタビューでは、以下の部分だけが記事になった。「文化的な交流はどんどんやっていくべきだ。政府が仕切るだけでなく、民間も含め、たくさんの交流のチャンネルを持った方がいい」と答えている。その時の監督がジーコだ。

さてあれから、僕も大人になって、サッカーを愛する人たちの気持ちが少しわかるようになってきた。2006年のドイツ大会では、イラクは出場していなかったけど多くのイラク人がジーコがいる日本を応援するといってくれた。そして、2011年のアジアカップで日本が優勝した時は、夜中なのに、イラク人が電話をしてきてお祝いを言ってくれる。今度は是非、日本とイラク両方がワールドカップに出て欲しい。

サッカーを見ればイラクの国の現状が見えてくる。ワールドカップの予選はホームとアウェイで戦うのだが、イラクは治安がわるいから、ホームでの試合がなくて、代わりにカタールのドーハがホーム。近いとはいえ、違う国だからやっぱりそれほど有利にはならない。イラクで試合ができるようになることは、復興のパラメーターでもある。イラクサッカー協会も情けなくて、ジーコ監督に、給料が数ヶ月支払われていなかったらしい。早くアルビルあたりで試合ができるようになって、日本からの応援団と対決したいもんだ。

911から11年、アメリカとはうって変わりイラクは、大量破壊兵器も持ってないのにぼこぼこにされた。町は汚いし、停電もしょっちゅうだ。僕らがどうにか動けるのは、コンクリートの壁が張り巡らされ、軍のチェックポイントが500mごとにあるからだ。今回の僕の旅は、かなりハード。9月7日にアンマンに到着してから、陸路で国境を越えて、シリア難民キャンプを訪問してバクダッド、翌朝には南端のバスラまで移動して、一気に北上してアルビルまでという行程。検問を通過するたびに兵士に、「イラクと日本どっちが勝つと思う?」と聞いてみた。当然、8割はイラク!と答える。4日間車で走り回ると本当にイラクは戦時下だと思う。アメリカ兵はいなくなったが、テロは後を絶たない。今年はシリア騒乱も影響してか昨年よりも犠牲者が増え、一ヶ月に400人が殺されているのだ。こんな状態で、イラクが日本に勝ったら奇跡かもしれない。

9月11日、アルビルの小児がん病院のプレイルームのTVでガンの子どもたちと一緒に、サッカーの試合を見た。スカイプで、福島の事務所とつなげた。パブリックビューイングで、「サッカー感動募金」というのを呼びかけてみた。海外ではよくやるらしい。自分のひいきの選手がゴールを決めたりすると募金する。ゴルフでホールインワンを出したらみんなにおごるとかいう風習が日本にもあるらしいがそれに近い。

残念ながら、イラクは0-1で負けてしまった。イラクが勝てば、がんの子どもたちには最高のプレゼントだったが、でも募金は182,400円があつまった。

次回は、来年の6月11日。場所は因縁のカタールのドーハ。日本は圧倒的に強いので、まず、ワールドカップ出場は間違いないが、イラクにとって、ドーハの悲劇になるのか?
今から楽しみだ。