ヤジッド教徒の悲劇

さとうまき

4月8日、「イスラム国」に誘拐されて連れ去られていた人たちが200人ほど解放されたというニュース。自らもヤジッド教徒で、昨年8月の「イスラム国」の侵略から逃れて避難生活をしながら支援活動を一緒にやっているハナーンさんから電話があり、40人くらい解放された人がいるというので一週間後に合わせてもらうことに。

アルビルから車で4時間近く走る。ハンケという村には、難民キャンプがあり避難民がたくさん暮している。キャンプには入りきらず、町中がテントだらけ。解放された人たちは、建設中のコンクリートの家にいた。

僕と鎌田先生が入っていくと、薄暗い部屋がいくつか分かれていて、9家族すんでいるという。逃れたばかりの人がいると聞いたという話を切り出すと、リーダーらしき男の人が、この人も、この人もそうだと集めてくれ、気が付くと、子どもと老婆数人を中心にいつの間にか部屋は40人くらいが集まってくれていた。みんな、くたびれたような目だった。タルアファルという村に連れて行かれ、そこの小学校で1000人ほどが暮していた。イスラム教に改宗させられ、毎日コーランを読まされていたという。イスラム国がリストをつくり、男は兵士に、女性は、シリアに連れて行かれ、兵士と結婚させられようとしていたという。そこで、意を決して逃げてきたのが26人ほど。そして残りは、「イスラム国」が自らバスを出して、解放した人たちだったということが分かった。

25歳の女性、ナジュラ(仮名)は、シリアのラッカまで連れて行かれ、一か月ほど牢屋に入れられていたそうだが、その後、「イスラム国」の家族の面倒をみさされた。隙を見てトルコに逃げてきて、昨日、ここまでたどり着いたという。従妹の3歳くらいの女の子を娘だと言い張って行動を共にしたが、「イスラム国」の兵士と結婚させられたようだった。
「妊娠しているかもしれない」とうので、検査を受けたいという。
「ともかく、病院に行くお金は僕たちが支援します。」
そういって引き上げたものの、もし、妊娠していたらどうなるのだろうか?

この国では堕胎は違法だ。同じようにイスラムの国で、好まざる妊娠をした場合、別の病名で入院して、こっそり出産し、赤ちゃんを引き取る孤児院があった。また、他の国で聞いた話だと、こっそりとやってくれる病院もあるらしい。そういう外国で堕胎させるか? 堕胎が出来ないなら、生まれてきた赤ちゃんを僕たちが引き取るか? ただし、いずれ出生の秘密をその子が成人して知ってしまったら? 自分には、「イスラム国」というテロリストの血が流れている。その子の将来を思うと、これまた厳しい。そんな、話を内内で悩んでいたのだ。

近くの病院では、噂になると困るので、4時間かけてアルビルの病院まで来てもらい、検査を受けてもらった。結果は妊娠していなかった。ああ、よかった。でも、似たような境遇にある女性たちは、未だに、「イスラム国」の捕虜になっている。解放とともに特別なケアが必要だ。