国境を渡る船

さとうまき

イラクのクルド人たちが、シリア難民の支援を始めたという。よく聞くと、難民ではなく、シリア国内だという。日本クルド友好協会のヌーリーさんが、古着とか、米、小麦粉などを集めて、シリア国内に送っている国境があるので見に行かないかと誘われた。それで、一体何がどうなっているのか、半信半疑でついていくことに。ちょうど日本から寄付してもらった古着があり、シリア難民が来たら渡そうと思った。
ヌーリーさんが、途中まで車を運転すると、ドホーク県の、ロビア市の市役所に友達がいるという。なんとここからは、市長さんのアミーンさんが自らの車を出して運転してくれた。国境に向かう道がひどい。凸凹である上に、対向車線には、荷を積んだトラックがスピードを出して前の車を追い越すのだが、こちらの車線を越えてさらに路肩を走ってくる。挟み撃ちにされるような感じだ。
さらに2、3時間でこぼこ道を走ると、国境に近づいた。季節はすっかり春めいていて、気持ちがいい。雨が降ると、丘陵になった土漠にも緑の草が生えて、ヨーロッパにいるような感じがする。子どもたちが草原を駆け廻って凧揚げをしていたり、楽しそうなのだ。そして、目の前にはチグリス川。
国境を船で渡るという。クルド兵に交渉して中まで入れてもらうと、ちょうど、10人くらいが乗ったボートがやってきた。生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこしているお母さんもいる。こんな簡単に転覆しそうな船に乗ってくるのか。矢切の渡しみたいだ。写真を撮らせてもらおうとするが、国境警備隊にダメだといわれる。今度は、スーツ姿のシリア人がわたってきた。クルド政党に属する政治家だという。イラクのクルド自治政府に支援の要請に来たという。いろいろと歴史が作られている。

「衣服よりも、お金だ。米とか小麦、食糧がほしい」という。また、国境からイラクに出てこれるのは、ちゃんとパスポートを持った少し裕福な人だから、洋服は、シリア国内に運ぼうという話になった。
1キロほど下流に行くと荷物を運ぶ国境があり、シリア人がたくさんいるという。今度はもう少し大きめのモーターボートが2艘止まっていて、シリア人が、小麦粉の袋をトラックから降ろして積んでいる。3キロ位先がシリアの対岸で、積荷を降ろしているのが見える。
イラク内のクルド人たちが集めた、小麦だけではなく、ガソリンや、灯油もクルド政府が支援しているという。よく見ると、黒と、青のホースが対岸まで渡してあって、その中をオイルが流れているらしい。なんだか、これからまるでシンドバッドが大航海に出るような光景だ。といっても、3キロをモータボートで行くだけなのだが。
そこで、段ボールの中を見せて、洋服を見せると、皆欲しがってよってきた。残りは船に積んでシリアへ運んでもらう。ヌーリーさんは、「日本から救援物資を送ってくれれば、シリアに持っていくことができます」という。もし、東北で毛布や洋服などの支援物資が余っていれば、ぐるぐるとリサイクルして、シリアまで持っていくのはどうだろう。2年前、石巻では、援助物資が結構余っていたのを見た。適切な量って難しい。
「毛布がたくさんあってね。うちらも、大丈夫になったら、アフリカに送ったりできないかしらね。なんかいろんな国のひとから支援していただいて恩返しがしたい」と、とある避難所のリーダーの人に言われたことがあったのを思い出した。
あれからあっという間に2年たった。JIM-NETのスタッフがお世話になっている小渕浜の漁師の木村さん。フジテレビや、毎日新聞の取材も受けている。
http://blog.goo.ne.jp/jp280/e/ec08e1398903f5e7038a0282a3f29f9a
漁に出ていた時に、津波が来たので、沖まで避難して助かった。しかし、妻と息子が流されてしまった。
シリア難民の支援をfacebookで呼びかけたら、木村さんから電話がきて、「支援でもらった服があるんだけど、持って行ってくれないだろうか?」と申し出てくれたという。古着がたくさんあるという。おそらく、いろんなところに古着とか支援物資が余っていて、被災者の人たちがどうしていいか結構困っているのではないだろうか? 善意が詰まった洋服だし、かといって、もういらなくなってしまった。でもほかに転用するわけにも行かず。でも、シリアでは必要だ。ぐるぐる回せば、新しい絆が生まれる。
木村さんに、シリアの船乗りたちが、チグリス川から援助物資を運んでいる姿を見てほしい。といっても、わずか300メートル位の航海だが。
そういえば、写真を撮っていてチグリス川の水を触るのを忘れてしまった。僕の靴はチグリスの水でぬれていたので、そっと靴を触ってみた。
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JIM-NETでは、3月8日-3月13日まで ギャラリー日比谷で、イラクやシリアの写真や絵画展を開催します。是非、お越しください。
http://www.jim-net.net/event2/2013/02/post-8.php