放射能におかされた福島

さとうまき

イラクのイブラヒムから、貸していたガイガーカウンターをかえしてもらった。DHLで送ってくれといったのに、イブラヒムが怖がって送ってくれない。それで、僕がイラクまでとりに行くことになったのだ。

日本に帰国し、これをもって、僕は、福島に向かうことにした。あてがあるわけでもなく、ともかく行ってみようというわけ。今回から宮崎から車を飛ばし小玉君が手伝いに来てくれた。うちの事務所の女子にも気にいられ、「動物」と呼ばれる間柄に。本当に人懐っこい。誰にでも話しかけるのだ。しかも、英語とか中国語とか、アラビア語とかで話しかけるから怪しくてしょうがない。東京にいるときは、我が家に泊まっている。隣の家の子どもに、あの調子で朝から話しかけている。向いのおっさんにもなにやら話しかけている。普段余り近所づきあいもないのだが、彼のおかげで和やかな感じはある。しかし、変な言葉で話しかけるのは止めて欲しい。多分、外国人がすんでいるよと近所中に噂になっているに違いない。

高速道路を走ると、郡山、二本松あたりでガイガーカウンターの値が上昇する。東京だと、15CPMが、一気に60まで上がるのでびびってしまう。さらに、南相馬に向かう途中の飯館村では、300をこえてしまった。で、二人ともあわてふためき、車を降りて、地面にガイガーカウンターを置いてみるとなんと、600を越えてしまった。シーベルとに換算すると6μシーベルト! なんかとんでもない世界に飛び込んでしまったという感じだ。

イラクとかクウェートで放射能を測ったりすると、必ずといっていいほど、警察がやってきて連れて行かれるだろう。数字が上がるたびに何か悪いことをしているような気がしてきた。なんだろう。この罪悪感は! ガイガーカウンターはまるで我々の罪の重さを数字としてはじき出しているかのようだ。

その後、南相馬に入ると、今度は数字がどんどん下がってくる。40CPM(4μシーベルト)ほどになるとようやく僕らも安心してきた。するとその時、後ろからパトカーがやってきて停まるようにといっている。
「なんなんですか? 僕たちは怪しいもんじゃないですよ」と小玉君が噛み付く。
「いや、おまわりさん、確かに怪しいという風に考えたくなる気持ちはわかります。こいつ怪しいですよね。こんなに車に、着替えやら、布団やら詰め込んで。でも、実は、僕たちは、何も悪いことしてないんですよ」と僕が説明する。
「免許証を見せてください」
「確かに、放射能を測りましたが、やっぱり、自分達のこと考えたら放射能は、測って安全かどうか確かめないと。何も悪いことしてないですよね?」
「宮崎ナンバーですよね」
「僕は東京ですが、確かに、こいつは、宮崎からきた変なやつですけど、いいやつなんですよ。ボランティアやってきたんで、こんなに荷物積んでいるんです」
「最近、多いんですよ、他県から入ってくる泥棒が」とおまわりさんが説明してくれた。
「だから、僕らは泥棒じゃないですよ。怪しいかも知れませんが」
おまわりさんは、一通り調べ終わると、
「ご協力ありがとうございました」といって免許証をかえしてくれた。

その後、僕は、週刊誌に、最近窃盗団が被災地に入り込み、「動物愛護団体を騙って警戒地域をうろうろしている外国人がいる」との記事を見た。
「小玉君、お願いだから、変な外国語で人に話しかけるのは止めよう!」