イラクの花嫁

さとうまき

ラーラが、結婚するという。
4年前14歳だった少女は、バグダッドからアンマンまでガンの治療に来ていた。しかし、今年の3月にガンが再発し、またアンマンの病院に入院しているという。早速病院に会いに行ったが、集中治療室に入っているので、面会はできなかった。婚約者のアリ(21歳)が、献身的に彼女を支えている。本来ならば今年の3月に式を挙げるはずだったのだが、ラーラの病気が再発したために式は延期されてしまった。
アリに話を聞いてみた。
「私たちが出会ったのは昨年の9月だった。私は、まだ若いから、もっと遊びたかったんだけど、親父から、心配してふらふらしてないで結婚しろと言われたんだ」
それで、親戚の娘を紹介されたという。しかし、アリの心をひきつけたのは、紹介されたタマラではなく、双子の妹、ラーラだった。しかし、ラーラの母親は、「この子は病気なんです」という。アリは、病気だと聞いてますます関心が湧いてきた。その日のうちに電話番号を聞いて交際が始まったのだ。しかし、それから数ヶ月後ラーラのガンは再発したのだ。母親と、アリが連れ添ってアンマンにやってきたが、お金のやりくりが大変だ。母親は、ホテルで皿洗いをしながら、家賃を安くしてもらった。アリの給料もそこをついたので、彼は一足先にバグダッドへ戻っていくという。

「今日はラーラと何を話したの?」
「しばらく会えないから。夫婦の会話をしたよ」
誇らしげにいう。結婚式は挙げていなくてもすっかり夫婦だという自覚。
「ロマンチックだった。『I Love you !』」
ラーラにはこれからしばらく寂しい思いをしなければならない。「空港に降り立ったら真っ先にラーラに電話するよ。彼女の声を聞かずにはいられない」

ラーラが退院する日に、ようやく私は彼女に会うことができた。4年ぶり。初めてあったころは、まだ幼かったし、遠足に連れて行ってやったりしたこともある。ベッドに横たわる彼女は髪の毛もすっかり抜けてしまっていた。「退院したら写真を撮りに行こう」
しかし、彼女は、治療費を払わないと、退院もできないという。私たちは、がんセンターの口座にお金を振り込んで、すぐに退院させるように取り計らった。お母さんは、もういっぱいいっぱいだという。息子2人は、アメリカ軍に連れ去られ未だに刑務所にいるという。

ガンの再発は非常に厳しい。ヨルダンで最新の医療設備が整っていても、助かる確率はすくない。のこされたのは骨髄移植のみ。あと何百万円準備しなければいけないのか。それでも、助かる確率は20%である。

その夜、街に出て、ラーラの支援を呼びかける記事の写真を撮ることにした。ラーラーは、かつらをつけて、気合を入れて化粧をしてきた。ダウンタウンの花嫁衣裳屋さんに行く。ラーラは、白い衣装よりは、色のついたものを好んだ。店の売り子の女性は、病気のことなどはまったく知らず、若い花嫁を祝福する。翌朝、母子は、バグダッドに向けて帰っていった。骨髄移植をするかどうか、まもなく決断しなければならない。