砂漠のモルヘイヤ作戦

さとうまき

皆さんは、モルヘイヤをご存知でしょうか? エジプトだけではなく広くアラブで食べられている葉っぱです。みじん切りにして、コンソメスープで煮詰めます。山芋のようにとろみがありねばねばしてます。それだけでも体によさそうなので、肉が中心の中東の食生活の中でレストランでは必ずモルヘイヤスープを頼むことにしています。

6月、ヨルダンの事務所に泊まることになった。本当は、ホテルに泊まろうと思っていたのだが、私が仕事をしやすいようにと、普段事務所にいるスタッフが気を利かしてホテルに移ってしまったのだ。まあいいかと思いながら顔を洗おうとしたら水道の蛇口にガーゼが巻いてある。部屋中の水道の蛇口にガーゼがかぶせてあり紐で縛ってあるのだ。変だなあと思いながらも、翌日まで待って、西村さんに聞いてみると、「おたまじゃくしがいるんですよ」という。蛇口からガーゼをはずして見せてくれる。そこには、黒い粒粒がたくさんついていたのだ。

よく見ると一匹、一匹がおたまじゃくしのような形をしているらしい。私は気持ちが悪くなって、しばらくするとおなかが痛くなってきた。それからしばらくすると下痢が止まらない。友達のイラク人も下痢をしていた。ヨルダン人も下痢になっていた。「うちの妻も下痢だ。アンマン中の人間が、モルヘイヤのような糞をしているんだ」という。そういうたとえか? しばらくモルヘイヤは食えんのう。と思いながらも翌日は、鎌田實医師を筆頭に何人かの医師団を連れて、国境の難民キャンプに行かなければならない。

砂漠を4時間車で走るからトイレは厳しい。そこで点滴を打ってもらいともかく気合で直すことにした。私の下痢は気合で治ったが、今度はチームの若い医師が下痢になってしまった。途中砂漠でトイレ休憩を入れながらも難民キャンプにたどり着くが、今度は、難民が怒っていた。国連が水を持ってきてくれるが、水のせいでみんな下痢になった。ちゃんとした水を持ってきてくれという。「そういわれてもなあ、アンマンでもみんな下痢なんだけどなあ。。。」と思いながらも、帰りがけにペットボトルにはいった水をわたされた。これを国連に分析してもらってくれと頼まれた。その日は朝早くでて、アンマンについたのは、翌朝2時、がんばらないはずの鎌田先生も「がんばったなあー」というぐらい皆疲れてしまった。

翌朝、ペットボトルがない! もしかして誰か飲んだ? 疲れていてみんな記憶が飛んでいる。その後、さらに何名かが下痢になったので、もしかしたらやっぱり誰か飲んじゃったのかも。

さて、日本から、要冷蔵の白血病の薬を持ってきた。今回はクウェートまでイブラヒムに出てきてもらい、彼がイラクまで持ち帰る。しかし、クウェートに運ばれた薬には保冷剤が少なすぎる。これから陸路で、国境を越えてイラクに運ぶのはもっと保冷財が必要だ。なんせ、昼間は50℃。

どうしたものかと、イブラヒムとスーパーマーケットに行くとモルヘイヤをみじん切りにして冷凍したものが売っている。これを使おう! ということになった。
イブラヒムが「今回の作戦はなんていうんだ」と聞いてくる。言われてみれば最近は作戦名をつけてなかった。「砂漠のモルヘイヤ作戦!」この作戦は、イラクに薬を持ち帰り、しかもモルヘイヤが冷たければ作戦は成功である。イブラヒムがモルヘイヤを食べて、下痢にならなければ完璧だ。もし、モルヘイヤのような糞がでたら、作戦は失敗だ。

「わかった。ぼくは、体を張ってモルヘイヤをたべるよ」
数日後、イブラヒムから連絡があり、「モルヘイヤは無事だったよ。」との連絡。モルヘイヤは、イブラヒムのおなかの中で消化され、再び地上にあわられることはなかったのである。

さて、ついに、イブラヒムが来日。8月6日から約一ヶ月滞在します。佐藤真紀と2人で日本全国を回りますので、ぜひイブラヒムのトークを聞きに来て下さい。イブラヒムの人生を絵本にした「イブラヒムの物語」も600円で販売します。詳しくはHP(http://www.jim-net.net/contents.html)をご覧ください