007「限りなき義理の愛大作戦」

さとうまき

イラクの情勢は悪化するばかり。イラク人の友人の多くは、国を捨てたがっていて、最近、何とかならないかという相談がやたら多い。脅迫状が届けられて、いつ殺されるかわからないというのだ。亡命の仲立ちをしてくれという。毎月3000人もの市民が命を落としているというのに、僕たちは何にもできないのだ。2006年は、ともかく無力感を感じることの多い年でもあった。支援している白血病の子どもたちも、良く知っている子どもが5人亡くなった。

ともかく、病院に来るのも大変だという。バグダッドにはチェックポイントがあって、シーア派かスンナ派かで命を分ける。ルワンダの内戦と同じような状況になってきている。バグダッドの病院では患者の数が50%くらいになってしまったという。せっかく僕らが続けてきた支援も瀬戸際に立たされている。白血病の子どもたちは、今まで苦しい闘病生活に耐えてがんばってきたんだから、あと少しのところを何とか支えてあげたい。

人々はイラクのことなどすっかり忘れて、募金も集まらず、このままでは、薬がそこを付き多くの子どもたちが死んでしまう。そこで、登場するのが、007こと、ジム・ボンド。今年も、バレンタインデーに向けて、チョコレートを売って、その収益金で、ガンの薬をイラクに届けるというのがその計画だ。そもそも、アメリカ軍とかイスラエル軍は、軍事作戦に文学的な名前をつけたりする。「怒りの葡萄」作戦、「砂漠の狐」作戦などなど。それが悔しくて、私は、たとえ、しょうもない仕事でも、大げさに文学的な作戦名をつけることにした。「冬のかき氷」作戦、「サンタの穴あき靴下」作戦、「砂漠のゴール」作戦などだ。しかし、うちのスタッフは、恥ずかしがって、なかなかこの作戦名を評価してくれないのが悲しい。

日本の自衛隊は、サマワでSU作戦。これは「スーパーうぐいす嬢」作戦のことで、目的は、地元の人たちに溶け込むため。サマーワ入りした際、現地の人たちが笑顔で手を振ってくれて、それが互いの心が通じ合う感じがした。それに、これだ! と思いつき、選挙運動の時のうぐいす嬢をまねて、装甲車や車両から現地の人々に笑顔で手を振らせたという。こっちの方がもっと安っぽくて赤面してしまいそうなネーミングじゃないか!

昨年に引き続き、バレンタインデーがまもなくやってくるわけだが、早速作戦会議を行う。「今年は、2007年だから、限りなき義理の愛作戦2007で行きましょう」「それ、なんだか平凡すぎない?」「どうせなら、007(ダブルオーセブン)限りなき義理の愛作戦で行こう。ジムネットのジム・ボンドというキャラクターを登場させて、中東をまたにかけて子どもたちを救うというストーリーだ。」「えー、ぜんぜんかわいくないです。女の子たちが楽しみにしているバレンタインデーのイメージが丸つぶれです。」スタッフの反応はいまいち。「つまりだね。今年のバレンタインは、007世代にフォーカスをあてるんだ。若いカップルだけのバレンタインじゃない。つまり解放だ!」「ジェームズ・ボンドのモテモテ姿にあこがれた世代が一斉に今年定年退職だ。そこを狙うんだ」「いまいちですね。2月は正月映画も終わってるし。」結局作戦会議では結論がでないまま年が明けてしまうことになるが、私の中ではすでに、007のテーマが鳴り響いている。

今年のタイトルは、スタッフの同意も得られず「007(団塊の世代の退職金でチョコレートかって!)限りなき(いつまでも続く戦争を止めさせたい)義理の(約束した支援はちゃんとやろう)愛(やっぱり愛でしょう。平和のためには)大(1万個売ります)作戦」にひそかに決定した。

大掃除も終えた2006年、12月30日、ジム・ボンドは作戦決行のため、ひっそりと孤独にパリへと飛び立ったのだった。

というわけで、今年こそは、イラクに平和が訪れますように。

注:今年のJIM-NETのチョコレートは、北海道の六花停に特注。
メッセージカードには、イラクの子どもの絵に東ちづる、酒井啓子、湯川れい子、鎌田實、坂田明、吉田栄作がお話をつけた。一個500円で1月15日より全国各地で販売予定。詳しくはHP http://www.jim-net.net/