棺桶の入る家

冨岡三智

何か月も続いていた自宅の改装がやっと終わる。家の改装を嫌がっていた父が亡くなったので、母は心おきなく踏み切ることができた。いままで店舗にしていた所も部屋に改装し(もう廃業しているので)、玄関も普通の家のようにする。玄関を開けるとすぐ正面に上がり框と引戸があって、まっすぐに部屋に入るという、いかにも昭和の住宅という感じのデザインになった。うちは終戦直後に建てたようなボロ住宅なので、構造上デザインも限られるとはいえ、もうちょっとお洒落な改装もできたかもしれない。けれど、私としてもこの昭和風にしたいという希望があった。(決定したのは母だけど)。つまり、棺桶を部屋から運び出せることのできるデザインにしたかったのだ。

店舗だったときは、店の扉こそ大きかったけれど、棚をたくさん据え付けたために裏の住居部分に続くドア周辺が狭くなってしまって、棺桶が通らなかった。だから納棺は座敷ではなくて、店のちょっと広くなった所でやるしかなくて、人に父を抱えてもらって店まで運んだ。せめて母が亡くなったときには、ちゃんと座敷で納棺して、そのまま玄関から担いで運び出してあげたい。

こんなことを考えるようになったのは、以前に読んだ養老孟司の『死の壁』の影響が大である。解剖医の氏がある遺体の棺桶を高層団地に運ぶときに、団地は人が死ぬことを想定して建てていないことに気づいたということが書かれていた。最近では団地だけでなく一戸建てでも、表から玄関の中が見えにくいように、あるいは奥行を出したり高級感を持たせたりするために、玄関へのアプローチから中の廊下に至るまで、曲がっていることも少なくない。こぢんまりした家やマンションなら苦労するだろう。養老氏の本を読んで以来、そういう造作の家を見ると、棺桶をどうやって入れたらいいのか、やたら気になるようになってしまった。