二項対立の物語

冨岡三智

また『真田丸』の話になる。第11回では主人公の父が自分を暗殺に来るライバルを返り討ちにする場面が描かれた。最初、2人は囲碁をしながら腹の探り合いをしている。その部屋の近くの縁側に、屋敷奉公するヒロインが事情を知らず腰を下ろして、思いがけず暗殺現場を目撃してしまう。それだけでなく、この暗殺劇の蚊帳の外にいた主人公を思わずその場に連れてくる。というので、このヒロインがうざい、せっかくの男同士の緊張感あふれるシーンが台無しだという声がネットでは多いようだった。

このヒロイン叩きの理由の1つとして、視聴者が二項対立の物語を好むというのがあるように思う。主人公AとライバルBが対立する物語は、敵も明らかで当事者同士の緊張も高まりやすい。話も単純なのでどちらかに肩入れする視聴者も熱くなる。これはスポーツでもそうだ。

ところが今回の『真田丸』ではA、Bと関係のないCがドラマに入ってきた。現実社会は複雑系で、閉じた二項対立パターンが生じることはほとんどない。第三者が介入したり予期せぬ事態が起こったりして事態は思いがけない方向に転がることが多い。このドラマでは社会というものをうまく描いていると私は思うのだが、ドラマでは想定外のストレスを感じたくない、予定されたABの対立とその決着のカタルシスだけを味わいたいと思う視聴者が多いのかもしれない。そういう観客の要求が古典芸能や時代劇によく見られる勧善懲悪を生み出してきたのだろうと思う。