映画の小物集めてます。

高橋美礼

<グッバイ、レーニン!>の<東ドイツ製ピクルス>

「ポーランドではいまバル・ムレチュニィ(ミルクバー)が若者に人気」と伝えるテレビに映っていた、食器やテーブルクロスの模様が気になる。共産主義時代につくられたミルクバーは低所得層のための食堂で、どこでも同じメニューを格安で食べられる場所だったけれど、今はもう機能していない。番組は、そのミルクバーが最近のレトロブームで復活し、ファストフード感覚で若い子たちが集まるようになった、という短い内容だった。

で、人気のワケは食べ物だけじゃなく、店の雰囲気にもあるらしい。ペタっとした鮮やかな色使いと幾何学模様を組み合わせた、あまり高級とは思えない模様が、お皿にもカップにもテーブルクロスにも壁紙にも使われている。柄×柄なんてあり得ない組み合わせっぽいけど、むしろそれが懐かしくて新鮮。1960年代〜70年代の日本にも、たくさんあった柄物じゃないかな。ポーランドに限らず、旧共産圏では暮らしのすべてが配給で成り立っていたようなものだ。種類だって多くはないから、デザインで勝負するなんてあり得なかったよね。

 <グッバイ、レーニン!>はベルリンの壁が崩壊する当時の物語。主人公のアレックスは、心臓発作で倒れた母親にショックを与えないように、と東西ドイツ統一の事実を隠し続ける。西側の資本主義がなだれ込むように生活を変えていく勢いに逆らいながら、旧東ドイツの製品を探しまわる主人公の姿は、全体が重いテーマにもかかわらず、コミカルだ。

無人のアパートに忍び込んで食料を探し出すのも、中身が問題じゃなくて、パッケージが必要だから。競争社会で生き残るためにアピール度の高いパッケージに切り替えていたり、統一ドイツの名称をつけていたりする食品ラベルはすべて却下。そして母親の前に出すために、コーヒーやジャムをわざわざ詰め替える。なかなか見つけられなかった<東ドイツ製ピクルス>はペンキまみれになっていたにもかかわらず、洗って再利用だ!立派なピクルスを瓶から直接、手づかみでおいしそうに食べる母親には、このラベルこそが安心の素なのだ。

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店頭でどれだけ購買欲をかき立てるか、という度合いをパッケージから取り去ったら、何が残るのかな。わかりやすくなるのなら、競争相手が少ないのも悪くはない。ラベルにあるシュプレーヴァルトは、原料になるキュウリの産地のことで、シュプレーヴァルト・グルケンはいまも瓶詰めが買えるようです。