雨の音に

くぼたのぞみ

しとど降る雨の音に
きみをおもう
もうすぐやってくる
九月をおもう
雨が多く
それでいて青空が突き抜ける
九月

ちいさな樹海の下り坂
抜けながら見あげると
暑熱に疲れた樹木が
黄ばみはじめた鱗片を
はらはら散らしていたのは
昨日 それとも

三月の
葉芽ふくらませていた枝は
花のない冷たい雨にうたれ
胸をかむ薫風に吹かれ
じれる熱風にさらされ
なかったことにしたい人たちの
おびただしい背中が
強引に築かれた崩壊寸前の壁のまえで
明晰さも倫理もなく
絡まる意識の濁りとなって
この土地を囲っている
それを
あわれと詠んではいけない
きみは裸足になるがいい

あれから半年
しとど降る雨の音に包まれ
夏の終わりの
青いりんごを食べながら
灰色の空の一点をにらみ
明日も食べる 容赦なく食べる
食べることが
細胞壁を突き抜け
きみの子どもたちの傷みとならぬよう
祈りながら
息をするやさしさを
抱きとめるばかり