声と話す

璃葉

気持ちよく外に出られない状況が続くなか、電話で用事を済ませたり話をする機会が圧倒的に多くなった気がする。
PCと睨めっこをしながら仕事の電話。打ち合わせや雑談も電話やメール。だからなのか、時折人に会うと一瞬、不思議な気持ちになる。

電話は、嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。電話越しの相手の声は明るかったり、暗かったり、気怠かったりでおもしろい。会って話すクリアな声とは少し違う、フィルターがかかったような、篭った声だ。その声色から相手の表情を想像してみるけれど、実はあんまり浮かんでこない。全く違うものを想像していたり、話の内容によって次々とイメージが切り替わる。
しかし、心の機微は伝わってくる。これは実際に会って話すよりも、敏感になるのかもしれない。

これといって何もない日の夜、なんならちょっとくさくさして面倒くさい感じになっているとき、気の置けない友人と電話をした。スピーカーホンに切り替えて、お互い酒を飲みながらかなりくだらない話をだらだらする。
まだ肌寒い夜だったので、足元にある赤外線ストーブをつけると、ちょっとだけ焦げ臭い香りが漂った。

どの文脈からそうなったのかは忘れたが、この状況が落ち着いたらどこへ行きたい?という話になった。
ウイスキーをちびちびやりながら、web上の世界地図を見る。向こうは海に行きたいそうだ。わりと寂れた街の海がいいらしい。
自分だったらどこだろう。ああ、とっても透き通った湖を見たい。そう思った。人はいなくていい。圧倒的に自然が強い場所へ行きたい。
じゃあどこの地域が良いだろう、どんな国がいいだろうかと話すうちに、自分の声も向こうの声も、弾けるような明るいものになった。
声と声の間に、何か暖かいものがほわほわと浮かんでいる気がした。
何だか無性に、自分のそばに置かれたボトルに入ったウイスキーを相手のグラスにも注いであげたい気がした。
友人はおそらくワインを飲んでいるのだろうか。なんだか受話器の向こうからどばどば注ぐ音がきこえる。
やっぱり声だけでなく空間すべてを共有したいし、向かい合って話したいのだと、ほろ酔いになりながら思うのだった。