土からの距離

璃葉

身近で働いている20代の女性たち、体調が悪いようだ。
とある企業で事務の仕事をしている女性数名と会う日があった。
みんな顔が青白く、マスクをしている。とにかく身体が怠いらしく、原因不明の湿疹があちこちに出ている人もいた。会社内の空調が大変な寒さなようで、長袖のカーディガンを羽織っている。
ちゃんと、寝てるの? 食生活、どうなっているの? と思わず聞いてしまった。約1時間(さえも取れないことがある)と決められた昼休憩の中で、食べたいものをゆっくり選ぶ時間はないから、毎日コンビニのパンやおにぎりを買うしかない、と答えが返ってきた。

気温や気圧の変化が激しい梅雨は、抑えられていた身体の疲れが表面に出てくる時期だ。高層ビルで働く彼女たちの身体はたまらなく冷えている。冷えと栄養が摂れていない食生活から起こる頭痛や月経痛、悪寒を、いつものことだと当たり前のように受け止め、市販の薬を飲んで誤魔化して夜遅くまで仕事をし、独り暮らしの自宅へ帰れば、ごはんをつくる元気もなく寝てしまう。
安い給料のなかで自然と食費と休息を削っている彼女たちは、あまり人間らしく見えない。先の見えない不安に押しつぶされ、今のサイクルを変える勇気がなく、目の前のやらねばならない事のために自分の身体は後回しにせざるを得なくなっている。そういう流れが、気づかないうちに出来上がっているようだった。

家の近くの商店街に、農家の直売所があり、畑から採れたばかりの野菜が並んでいる。
土にまみれた無骨な野菜は、農薬が一切使われていない。
旬のものを選んで買って、にんにく、オリーブオイル、少々の塩で野菜スープを作った。
暖かい土から遠く離れてしまった彼女たちにこそ食べてもらいたいと、ふと思うのだった。

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