夏の燈

璃葉

薄紫色の夕闇の中へ自転車をこいでいく。

目的地への近道のため、近所では割と大きめな公園を横切ろうと緩やかな坂を下っていくと、いつもとは比べものにならない人の多さ。橙色のちょうちんがいくつもぶら下がっている櫓を見て、「あ、夏や」とこころの中で呟く自分がいた。

梅雨が早めに終わり、夏本番だとニュースでは聞いたりしていたが、この一ヶ月の中で胃炎を患い、体調は最悪、自分の部屋で寝るか、読書をするかバイト先の暗いバーの中に引きこもっているか、何の色気もない熱風が立ち籠める四角いビルの間を歩くかで、行動範囲はやたら狭くただただ上昇していく気温と、下降して行く自分に嫌気がさすだけだった。

公園の木や遊具に浴衣姿で楽しそうに登る子供達や、がちゃがちゃと並ぶ屋台、ボロいスピーカーから流れる祭り囃子、暖かく賑やかな空気。

公園を横切る数秒、暗かった自分の目や耳に、懐かしくも新しい色と響きが入り込んでくる。夏を実感する一瞬の風景だった。

Unknown.jpeg