125アカバナー(10)火の起源

藤井貞和

まだそのころ、火はなかったって。 世界の最初、
藁が火になろうとしたって。 ぼくは火になろう。
ついで、樹皮が、希望して火になろうとしたって。
軍歌が敷地を埋めていたって、もう いっぱいに。
学校のうしろは崖になっていて、抵抗できなくて、
藁がまっさきに落ちていったって。 「さよなら」、
ぼくたち。 樹皮はあとを追いかけるかのように、
「さよなら」、ずるずる落ちていったって。 崖下。
土偶と土偶とは手と手とをとりあって落ちたって。
ころころ転がる土製の丸い面は遮光の目を閉じて。
そのあとはもうだれが落ちたのか判らなくなって、
全校で死亡33名、負傷85名、逮捕者はかずを、
知らず。 夕方までに、女性徒は釈放されたって。
先生方は血をながしてのたうちまわっていたって。
土偶よ 語れ、崖下の藁の死体から、火が生まれ、
樹皮の死体からきみの火が生まれたということを。
丸い土製の遮光の目よ 眠れ。 原始の炉のなか
で。 坊やもお寝み、悪い夢を見るんじゃないよ。

(あれっ、四大元素ってなんだっけ。土、火、水、空気だったか。木がはいるのじゃなかったか。方位はまん中が土、だったかな。秋が金。今日は火曜日、というわけで、空気曜日を作りたい。噴煙は空気を押し広げるためにできるかたちです。)