197 あなたの詩を評す(作品の書き方)

藤井貞和

彼女は世界の子どもをぜんぶ集めて、しかし一人だけ足りないと、
伝説の扉をぜんぶ開け放して、しかしひとつだけ開かなくて。

そのようにして、手つきのやさしい女性の正義で探し求めて、
そのようにして、彼女は地上を終わらせるみたいにして、その直前で。

彼女のからだはガラスをぜんぶ壊した球状で、しかし一箇所だけ、
心をのこしたので、そのようにして破片から、少しやり直して。

さらにはいろう、ぜんぶの森が終わるから。 しかしさいごの樹木が、
彼女をそっと包みいれて、そのようにして送るよ、のこりの香りで。

ひとつだけ足りない、世界の詩集のさいごを、あなたは書こうね。
神さまならば、そのようにして去っていっていいよ、さようならね。

ひとつだけ足りない、世界の歌集が集める誠意や情熱、
うたはそのようにして降りてくる、息がかかってくるのを待って。

詩集の題の究極のこちらがわ。 世界人類はぜんぶ平和で、しかし一部で、
平和が足りなくて、どんな作品がほしいの?

むこうがわの子は歩いてやってくる、扉に手をかけて、
むこうがわにいる声がして、しかしあなたは作品を手渡すことができないで。

作品を手渡すことができる。 かたちの成長にともなって、
それらはどこかにあって、しかし真上にひらいた天井のひっかききず。

音便を言文一致のすきまで叫ぶ。 字は叫ぶ、ひっ|かき|きず。
そのようにして発生する、まぎれるなまり、擬態語、無敬語地帯。

どこかで会うひとがぜんぶ平安でありますように。 しかしひとりの、
不安のためにあなたは書いてたね、今夜の反時計回り(不幸なあなた?)。

現代語は病気である。 ああ、そうじゃなかったのかい。
そのようにしてだれもが書けなくなってゆき、回復するすべはない?

死語からみると、あなたは可能性。 あなたのほかはぜんぶのぜんぶ狂歌です。
しかしながら、だじゃれは禁物。 不可能性の「ふせひめ」さん。

発見でん(八犬伝)とか言っちゃって、「きょうぼくだめかね」=京極為兼。
きょうのぼくはだめだから、あなたは「いい詩」を書きつづけてね。

(詩を書いたので読んでほしいと頼まれて。)