言語と精神──翠の虱(36)

藤井貞和

きっと、戦争当事国だから。

いいえ、そうではない。

チョムスキーの講演を聴いている、

一人の少年が、

徴兵よりは言語学を、

ぼくは勉強したいんだ、

そう言いながら、

死んでいったこと、ベトナムの猖獗のなかで。

うそを、

そうではないはずなのに、

吐(つ)いた国、米国。

世界がいま、

{言語と精神}

かくじつによくなってる、

かくじつにあれから30年、

よくなってる。

(昔話を語る少年が、語りを教えてくれたじっつぁんに、テープで聴かせる。小学校で、みんなのまえで、身体をいっぱいうごかして語る。そのときの録音をイヤホンで聴きながら、「よかった、じょうず」と、じっつぁんは仰向いたまま、ちいさく拍手。少年はじっつぁんのベッドにもぐりこんで、胸にしがみついている。こうやって毎晩、少年はじっつぁんから昔話を聴いて成長した。宮城県の昔話採集者、佐々木徳夫(のりお)さんを記録した番組から。佐々木さんは3000人にこれまで会って、1万話を集めている。東北の緑と畠。語りが支える人々の暮らしにこそほんとうの「美しい国」があると、この国の政治家たちにわからせることのむずかしさ。{言語と精神}はチョムスキーの著書名より)